1.変態注意報
朝が来た。
忌々しい朝が来た。
どうして忌々しいの、って?
こんなにいい天気じゃない、見てよほら、小鳥もすごく嬉しそう、ですって?
冗談じゃない!
だって朝が来ると…朝が来ると"ヤツら"が…!
「は!?来た!!」
気配を感じて部屋のドアのほうを振り向いた瞬間、バッキィィィ!!と派手な音を立てて壊れた。
吹っ飛んだドアを見て、あたしは反射的にベッドから飛び出すと窓を開けて外に出た。
同時に仕掛けが作動して、部屋への侵入者向かって催涙スプレーが放射される。
あたしの部屋の扉を壊した本人が涙でもがき苦しんでいる間に、あたしはこの場を離れなければならない。
そう、この場を…
「!!今日もいい天気だな!」
「逃げ出さなきゃ、ってギャアアアァァ―――――!!!?」
青みがかった髪を靡かせて、親指立ててウインクまでかましたヤツは、涙のなの字も流さずに爽やかな笑顔で言い放った。
「く、今日はレイ!?面倒なヤツが…!」
「面白い仕掛けだったが、まだまだだな。と言うわけで、俺とイイコトしないか?」
「何が"と言うわけで"じゃァァ!!話が繋がっとらんわドアホ!!」
そう、この男。
南斗水鳥拳のレイは、あたしを毎日のように襲撃してセクハラをかましてくる天敵なのだ。
「え…そ、そんな、、繋がるだなんてエロいぞお前…!」
「頬を染めるなウジムシ野郎!!!」
「あ、イイ、その罵声…!」
「こ、このどM!!!」
この男と知り合ったのは些細なことが切欠だった。
あたしは以前まで通っていた道場が場所を移すことになり、今の道場に移ってきた。
そしてたまたま荷物を持って歩いているときにぶつかり、助け起こしてくれたのがこの男、レイだったのである。
そこまでは別にいい。
不覚ながらあたしも"キャ、この人かっこいい!"くらいは思った。
問題はその後の彼の行動である。
レイは事もあろうにあたしを立たせた後で、何故かあたしをじっと見つめてこう言った。
「なあ、『俺と結婚しない?』」
「その後の台詞が"俺、妹系萌えなんだ"の男と結婚できるかァァァ!!!」
ちなみにこれらの会話は全て走りながら行われている。
もとい、あたしが逃げているのをレイが追いかけながら、だ。
「くッ…このままだと追いつかれる…!」
「ー!クマのパンツが見えているぞ!」
「死にくされェェ!!!」
いい加減に腹が立ったのとデリカシーのない野郎の言葉に、あたしはその辺にあった石を掴んで思いっきり直進してくるレイに投げた。
飛んでいった石は見事にレイの腹部目掛けてわずかなカーブを描き、直撃した。
「ぐッはぁ!!?」
「殺った!?」
立ち止まって拳を握って様子を伺うが、腹に拳大の石の直撃(時速120キロ)を受けたにも拘らず、レイはプルプルしながら立ち上がった。
そのまま寝ていてもいいのに。
「ふ…こ、この程度では俺のへの愛は尽きん…!」
「いらん!燃え尽きろ!!」
「俺が燃え尽きるのはと二人でいるベッドの上だ…っ!!」
「畜生、余裕でアホほざいてやがる…!」
悪役みたいな台詞を吐いて、あたしは周囲を見渡した。
するとちょうどいいところに修行用のマットレスとロープがある。
まだちょっと辛そうなレイを放っておいて、あたしはそれを掴むと勢いよくレイの上に被せた。
「うわっ!?なんだ!?」
「よし、ヘンタイよ覚悟!!」
レイが前後不覚に陥ったその隙に、あたしは足払いをかけてレイを倒すと、マットレスでヘンタイを簀巻きにしてロープでしっかり固定した。
「や、やった…!」
「だ、出してくれ!!」
「アホか!そこで寝てろ、変質者!!」
がっ、がっ!とマットレスを蹴りまくると、レイは何故か嬉しそうに啼いて(キモイ)頬を染めて勝手なことをほざいた。
「ああっ!そうか、放置プレイ!!放置プレイなんだな!?、なんて大胆でマニアックな!」
「朝ごはん食べにいこ…」
「ああっ、〜!そんな、激しい…!!」
背後で放送禁止用語が飛びまくっているのを聞かなかったことにして、あたしはすたすたとレイを残してその場を去った。
朝から一日が終わったくらいの疲れを背負って、あたしは今日も修行をする。
きっと明日も変態注意報だと、心から憂鬱な気持ちになりながら。
「ああっ、俺もう穴があったら入りたい…!感じすぎて!」
「掘られて死んでしまえ!!」