2.手に負いたくない

また朝が来た。
重々しい朝だ。
だって曇ってるもんね、ですって?
雨降りそうな日って気分落ちるよねー、ですって?
そういう意味じゃない!
だって朝が来ると…朝が来るとやっぱり"ヤツら"が…!


はっと気配を感じて目を覚ますと、目の前にシンが居た。
というか、布団の中にシンが居た。

「ふ、。よく眠っていたな」
「今日はてめえかァァ――!!!」

起き抜けにストーカー野郎の顔なんて寝覚めの悪い者を見せられて、とりあえずサイドテーブルにあった花瓶で頭を殴りつけると、パリーン!!と花瓶が割れた。
普通なら倒れてもいいような攻撃なのに、シンは頭からダラダラ血を流しながら余裕の表情で言った。

「くくっ、相変わらずハードな愛情表現だ」
「ハードなのはあんたの性癖だ、このお人形遊び野郎!!…って全裸ー!?」

ベッドから這い出たやつを見て、あたしは悲鳴をあげた。
変質者がここにいる!

「どうかしたのか」
「股間のモンをしまえェェェ!!」

何がどうかしたのかだ。
どうかしてるのはこいつの頭だ。
真っ赤になりながらシーツを投げつけると、シンはこうのたまった。

「そんなに喜ばれると俺も照れるぞ…」
「蹴るよアンタ…!!」

血がダラッダラ出ているのになんで余裕なんだろう。
献血広場にでも行って血液5リットルくらい抜いてもらえばいいと思う。
しばらく貧血で立てなくなってくれたらいいのに。
というかそのまま死んでくれたらいいのに。

「人の寝室に勝手に上がりこむなって何度言えばわかる!?いい加減にストーカー法適用するぞ!!?」
「何を言う、昨日の夜はあんなに激しかったのに…」
「イヤ何の話!?」
「そんな…そんなこと言えるわけないだろ…俺に言わせるなんて、結構サディストなんだな…ふ…」
「こ、こんの近視眼男…!」

何故か頬を赤らめるシンに、あたしは見に覚えのない事を妄想されていたようでキレかけた自分を何とか抑えた。
この男は変態なのだ。
一々突っ込んでいてはきりがない。

こいつとの付き合いはそう長くない。
シンとはこの間北の方の道場に行った時に知り合ったばかりだ。
なんでも、レイやユダ同様若手の六聖拳伝承者らしい。
だから一応拳法家としては尊敬したほうがいいのだけど、たまたま迷って道を聞いたあたしに惚れたらしく、その後の行動のヤバさにあたしは一気に尊敬という心を砕かれた。
ヤツが惚れた理由はというと、昔追っかけやってたアイドルとあたしの顔が似ているからだそうだ。
しかもそれからあたしの等身大ちゃん人形まで作ってあるというから眩暈がしそうだ。
人の顔と人の身体した人形で着せ替えまでしているという話だから、正直、ひく。

もうほんと、やめて欲しい。
こいつも一度逝った方がいいと思う。

「ってゆーか出てけ!あたしは着替えるんだから!」
「む、では俺が着替えさせてや」
「皮剥いで晒すぞ外道」
「そんな…●●●の皮剥くだなんてキワドイこと…」
「キワドイのはテメエの頭だ!!」

今度は目覚まし時計で横から殴ると、流石に頭部の2回の鈍器直撃は効いたらしく、シンがよろめいた。
その隙に部屋の外に蹴り飛ばして鍵を閉め、あたしは素早く着替えを持って窓を開けるとベッドの下に転がった。
案の定、窓からあたしが逃げたと思い込んだヤツは一直線に外に飛び出していき、あたしは周りが静かになったことを確認してそーっとベッドから這い出した。
ヤツはいない。

「はぁ…」

今度こそ窓を閉めてしっかり鍵をして、カーテンも閉めてから、あたしは公衆女子トイレに駆け込むとそこで着替えを済ませた。
あの変態も、手に負えない。

「いや…むしろ手に負いたくない…」

しかし明日を生きるために今日もあたしは変態と戦う。

…孤独な一人だけの戦いだけど。


ー!どこだァァ!!」
「あれっ、ちゃんならさっき道場のほうで見かけましたけど?」
「!?」

逆ハー、と言うよりギャグハー。シンたまのキモさ加減が…!ごめんなさい謝罪します!


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