久しぶりに朝、昼と恙無く過ごしたあたしは、そろそろ何か来るなと思い構えていた。
今日はハロウィンだ。
南斗の道場でハロウィンなんて、と思うかもしれないが、祝う祝わないは別にしてそういう日があるのだとあたしは知っている。
そして、それに便乗しそうな人物も。

「…できれば何事も無ければいいけど…そうも行かなそうだな…」

一日の修練が終わると、あたしはすぐさま部屋に戻った。
来る、きっと来る。
息を潜めて警戒して待っていると、やはりというべきか、ドアがノックされた。
手の中の酢昆布の小さな箱を握り締めると、あたしはゆっくりとドアに近づいた。
そして息を整えてがちゃり、とドアを開けると、レイが満面の笑みであたしに言った。

、トリック・オア・トリート」
「Treatで」

そういって酢昆布を握らせると、あたしはすぐさまドアを閉めて鍵もかけた。
直後にバンバンバン、とドアが叩かれる。

、これ、なんか違うぞ!?お菓子はお菓子でも俺が欲しいのは酢昆布じゃなくてで」
「黙れバカオスが!!」
「あっ…今の罵倒、ちょっとイイ…!」
「人の部屋の前で悶えるなァァァ!!」

どMの発言にぞわぞわと鳥肌が立って、あたしは椅子をドアにぶつけてやった。
すると諦めたのか、レイの気配が無くなった。

だが、こんなのは序章に過ぎない。
暫くすると、またドアがノックされた。

「…何」

15センチほどドアを開けてみれば、シュウ様(一応まだ様付け)がにこにこして立っていた。

、トリック・オア」

ばたん。

「最後まで言わせてくれ、頼む!」
「知りません。帰ってください」

バンバンとドアを叩く音がやかましいので、あたしは仕方なくドアを開けた。

「なんですか!?ハロウィンって大人が子供にお菓子あげるんでしょ!?シュウ様はもう立派な大人でしょーが!!」
「いやいや、それはわかっているから」
「じゃあ何のようですか」

ギンギンにガン飛ばしながら尋ねると、シュウ様はものすごくいい笑顔でこう言い放った。

「君に悪戯をしに」

ばたん、がちゃっ。

、開けてくれ!痛くしないから!!!」
「帰れ性犯罪者ァァァ!!」

ドアの小さな覗き窓を改造して作った撃退用催涙スプレーのスイッチを押すと、シュウ様はげほげほと咽こんで逃げていった。
これで二人の変態を撃退できたが、まだ5人も残っている。
どうかできる限り覚えている連中が少なくありますように!と祈ったが、あたしの願いは却下されたらしい。

こんこんこん、とまたもやドアがノックされた。

「ああもううるさい!」

鍵を開けてドアを思いっきり開けると、前に立っていたらしいシンが見事にドアにぶち当たった。

「ぶはっ!?」
「そんな邪魔なとこに立つな!帰れ露出狂!!」

そういってばたん!とドアを閉め、もう一度鍵を閉めると、数秒も経たないうちにドアがノックされた。
鬱陶しいことこの上ないので、今度こそフグリでも蹴り上げてやろうかと思いもう一度ドアを開けたあたしは固まった。

「「トリック・オア・トリート」」

見事なステレオの決まり文句を言い放ったのは、回復したシンとユダだった。

「増えとる―――――――――!!!!?」
「「何がだ」」
「お前ら変態がだァァ!!」
「誰が変態だ!俺はにSM服を着せたいとか素肌でメイド服を着て上目遣いでご主人様と言って欲しいとかそんなことは考えておらんわ!」
「俺も別にが使った化粧品欲しいとか特にリップクリームと口紅舐めたいとかそういうことは考えておらんぞ!」
「どっちも十分キショイわァァァ!!!」

さっさと帰ってもらおうとみかんを二人の股間にぶつけると、あたしは素早くドアを閉めて施錠した。
外では非常に苦しそうな声が聞こえてくるが、あたしは少しだけすっきりした気分になった。
いい気味だ。
いっそそのまま不能になってしまえ。

そのうち呻き声が聞こえなくなり、今度こそこれでもう終わりにしてくれと願うも、やっぱり神様はあたしをとことん苛め倒すつもりらしい。
またドアがノックされた。
もうドアを開けるのはやめておいたほうがいいかと思い、居留守を決め込もうと静かに無視を続けると、ドアの外の人物は言った。

「ふむ。仕方ない、私は裏から突入するから、ラオウ、ここで待機していてくれ」
「いいだろう」
「うおおおおおおおおおおい!!?いい事あるかボケェェェェ!!!」

そんな挟み撃ちにされたら逃げ場がなくなるじゃないかと慌ててドアを開けると、案の定そこには暗黒大魔王(トキ)とラオウがいた。

「何の用だ、お前ら!!」
「何ってハロウィンだから、これに乗じて君を攫って行こうと」
「犯罪だぞソレ!?っていうかもうハロウィン関係ないだろ!?」
「まあまあいいから」
「良くない!!帰れ!!」

あたしががーがーと叫び倒すと、ラオウがさらっととんでもないことを言い放った。

「おろかな。お前のものは俺のものというだろう。さあ来い、すぐ来い、今来い」
「誰が行くかァァァ!!」

部屋の中から引っ張り出した大量のおかきと干し梅を押し付けると、あたしはドアを閉めようとして

がっ!

「あっ!?」
「話はまだ終わってないよ、

トキの足に阻まれた。
なんてヤツだ。
これじゃまるで性質の悪い取立て屋かセールスマンだ。
ぎりぎりとドアを引っ張って必死に閉めようとするが、足まで鍛えてあるのか、トキはにこにこと(どす黒く)笑っている。

「くっ…あ、足を退けろよ…っ!!」
「そうは行かないな。私はともっと話をしたいんだ」
「ストーカーと…話す…事なんか…あるか…っ!!」

まずい、このままじゃ本当に拉致される!
流石に身の危険を感じて、あたしがどうしようと焦っていると、ドアの外で声が聞こえた。

「貴様ら、そこで何をしている」
「!」

その声にはっとして、あたしはドアを閉める手を緩めた。
これは…

「ふん…サウザーか」
「ち…面倒なところに…」

トキが苛立たしげに舌打ちするのを見て、あたしは少し青くなった。
やっぱりこいつ、セクハラ暗黒魔王だ。
抵抗してほんとに良かった!

「おい、。出て来い」
「あ、ああ」

こいつも警戒対象ではあるけれど、どうやらこの場は味方になってくれたらしいので、あたしは渋々部屋から顔を出した。
サウザーはラオウとトキの二人と、一対二で睨み合いながらあたしに尋ねた。

「何をされた」
「あ…部屋に押し入られそうに…」
「ほう…?」

あたしの返答を聞いたサウザーは、ぎっと二人を睨む眼を更に強くした。

「随分と調子に乗ってくれたものだな」
「そちらこそ、なかなか良いタイミングで出て来るじゃないか。王子様気取りはやめたらどうだ?」←暗黒魔王
「たまたま通りがかっただけだ。不法侵入の貴様らと違ってな」
「…ほう?たまたま、こんな所をか?」
「ふん、南斗六聖拳の俺が南斗の道場の何処にいようが構うまい。それより、いいのか貴様ら?このままだと長老方に知られて厄介なことになるが」

サウザーの言葉に、ラオウとトキは一瞬眉を顰めた。
さすがに揉め事になるのは避けたいらしい。

「…いいだろう」

暫くの沈黙の後、先に折れたのはトキだった。

「トキ!何を腑抜けたことを!」
「別に諦めるわけじゃないさ。だが、今日はとりあえず引き上げよう。こちらとしても揉め事は困るだろう」
「ぬう…!」

弟の言葉に、流石にラオウもそれ以上は何も言わず、悔しそうに舌打ちした。

「決まりだな。では、とっとと帰ってもらうぞ」
「言われなくてももう帰る。だが、彼女はお前には渡さない」
「ふん、これは俺のだ」
「いやこのラオウのものだ」
「誰のでも無いってば…」

何とか去って行った二人の後姿を見て、あたしは些かの脱力感をおぼえると、その場にへたり込んだ。
疲れた。
ものすごく疲れた。

「はあぁぁぁぁぁぁ…」
「なんだその情け無い有様は」
「ほっといてくれ…疲れたんだから…」

あたしが部屋の前で脱力していると、サウザーが何かを取り出してあたしに投げてよこした。

「わ、」

ぽん、と手に収まったのは、手のひらサイズの饅頭だった。

「…え?」
「貴様にやる」
「…」

見ればサウザーは何故か明後日のほうを向いていた。
まさか何か入っているんじゃないだろうかと思いあたしが怪訝な顔をすると、サウザーは言った。

「たまたま貰ったのが余ったから貴様にやるといったのだ。今日はガキに大人が菓子をやる日なのだろう」
「誰がガキだ!」
「毒も入っておらんから安心しろ」
「な、なんだよ、別にそんなこと言ってないだろっ、」
「そうか」
「…」

どうにも怪しいけれど、助けてもらった手前そうも言えない。
そうこうしている内に、サウザーが踵を返した。

「俺はもう行く。さっさと部屋に入れ」

その言葉に、あたしは慌てて立ち上がった。
言わなきゃならないことがある。

「お、おい!」
「なんだ」
「その………なんだ。助けてくれて…あ、ありがとな」

あたしが渋々礼を言うと、サウザーは軽く手を上げて帰っていった。
その姿がほんの一瞬だけ様になっていて、あたしはその直後に首を振りまくって一瞬でもかっこいいと思った自分を嘆いた。


ちなみに。

「…やっぱりなんか入ってるじゃないか…っ!!」

貰った饅頭をそこら辺のネズミに毒見させたら見事に交尾を始めやがったので、あたしはすぐさまそれを埋めると、もう二度とサウザーの言葉なんか信じるか!!と心に誓ったのだった。

変態シリーズ、サウザー落ちでした。ハッピーハロウィン!