Case 4. 持病をお持ちの方の再就職について
「102番の方ー」
番号順に次の人を呼ぶと、やややつれ気味の男性が立ち上がってこっちに来た。 大丈夫かこの人…なんか咳してんだけど…。
「こんにちは。私、
と申します。ハローワークカードをお預かりしてよろしいですか?」 「よろしく頼みます」 「こちらこそよろしくお願いいたします。お名前はトキ様でお間違いないですか?」 「ええ。間違いありません」
お、でも話した感じ優しそうだ。 物腰も穏やかだし、最近のイケメン軍団より話がスムーズに進みそうかも。
「それでは、本日はどのようなご相談でしょうか?」 「こちらの医師の求人を見たので、是非応募したいのです」 「かしこまりました。それでは早速事業所の方に問い合わせてみましょう」
良かった、この人はマトモな人みたいだ。 さて、事業所の電話番号は……
「うっ……ゴホッ!!」 「あ、あら?あの、大丈夫ですか……?」 「ああ……心配な……ガハッ!!」 「うおおおい吐血ーーー!!!」
嘘でしょ血ぃ吐いちゃったよ!! こんなん絶対就業可能な健康状態じゃないでしょ!! 何考えてんだこの人ー!!
「あ、あの、失礼ですが何かご病気でも……?」 「フ……既に死の病に冒されているので……」
微笑を湛えながら言うなよ!! 反応に困るわ!!
「でしたら、お体の状態が落ち着くまではしばらく療養なさった方がよろしいのでは……」 「いや、それには及びません。もう大丈夫」
とても大丈夫そうには見えねえよ! うわあ心配だこの人……大体こんな調子じゃ求職者紹介できないじゃんよ……!
「ですが、ご自分のお体も大切にして頂いたほうが……」 「私の体のことは良いのです。死兆星が頭上に落ちたあの日から、この命尽きるまで病に苦しむ人々に希望を与えたいと決めましたからね」
全然話がわかんないけどすごい切ないよ! これは……判断に苦しむわ。 今のご時世じゃ必要なんだろうけどなー。 言ってる自分が病に苦しんでるからな……難しいな……。
「失礼ながらお聞きしますが、ご家族の方はご存知なのでしょうか?」 「ええ。応援してくれています」
いや止めろよ!! この人が一番病人だろどう見たって! どうなっても知らないぞほんとにー!!
「……かしこまりました。それでは、治療中の病を持った方でも就労可能な求人をお探ししましょう」 「その様な条件もあるのですか?」 「今すぐ見つかるかどうかはわかりませんが、まずは検索してみますね。少々お待ちくださいませ」
そうだよね、まずは探してみないと! なんか話聞いてたら可哀想になってきちゃった。 あんまり情を仕事に入れるのは良くないけど、本人の強い意志もあるしやってみよう。 えっと、職種が"医師"で……備考に"持病"、かな。 どれどれ、あるかなー……うん?
「あ!ありますよ一件!!」 「!本当ですか?」 「はい。すぐに求人票を印刷しますね」
気に入ってくれるといいけど……よし、出た!
「お待たせいたしました。こちらの"奇跡の村"の求人になります」 「これは……!」 「?どうかなさいましたか?」
手渡した求人表を見た途端、トキ様の表情が変わった。
「ここは……私が以前医師を務めた村です……」 「え?ちょ、ちょっと失礼しますね」
慌てて手渡した求人を見ると、備考に記載があった。
「備考……"持病を持っている方も歓迎。北斗神拳を扱える人は尚可"……って、これもしかして」 「……皆……待っていてくれたのか……!」
あ、やば、この人ちょっと泣きそうな顔してる。 なんかこっちまでじんわりきた。 ドラマ見ちゃったよ……。
「……では、こちらの事業所に確認いたしますね」 「はい。よろしくお願いします」
今までの変人達とは打って変わって、とってもいい雰囲気だ。 ヘンな人も沢山来るけど、こんなドラマもあるんだなー。 胸が温かくなるよね。 と、ダイヤル式の電話の先で呼び出し音が途切れた。
「――もしもし?いつもお世話になっております、私、世紀末公共職業安定所の
と申します。そちらの求人にぴったりの方がお一人いらっしゃるので、是非ご紹介させて頂きたいのですが……ええ、はい。全て条件を満たされております。」 |