或る日常の光景
「あっ、てめえ!俺様の分の唐揚げ横取りするんじゃねえ!」
「いいじゃんこれあたしが作ったんだし!つうか揚げ物食べ過ぎたら怒られるんじゃないのージャギくーん」
「こ、こんのやろ〜!」
北斗の道場は男所帯で、炊事洗濯は分担制だ。
しかしそれも人数が増えるほどにいい加減に辛くなったリュウケンは、一人の賄いを雇った。
それがというわけだが、この娘、実に元気がいい。
気風もいいし溌剌としているため、一番表向きの性格が近いジャギとはいつもこうしてじゃれ合っている。
兄弟のうちで一番世俗的なところがあるジャギが、彼女には付き合いやすいようだ。
「あ、そういえば!ジャギ、あんたこの間貸した漫画返してよねっ」
「ああ?おー、あれか。おう、後でもってってやるよ」
「そ。面白かったでしょ、あれ」
「ああ。そうそう、あの3巻のよ、主人公が…」
あああの話、あそこでこうこうこうで、と漫画の話で盛り上がる二人を見て、トキは微笑んだ。
「仲がいいな、あの二人は」
「さんは大らかな人ですから、ジャギ兄さんのああいう性格でもうまく付き合えるんですね」
「んんー…そうだね…」
静かに答えた弟の落ち着き方と、年上のくせに唐揚げ一つで文句を垂れる兄のどちらが大人かといえば、もちろんケンシロウなのだが、この末弟ももう少し妥協や譲歩をしてやってもいいのかもしれない、と次兄のトキとしては複雑なところだ。
いずれ伝承者争いをする相手とはいえ、ここでは兄弟であるのだから。
その弟の譲歩を望んでいる兄であるジャギはというと、と今度は格闘ゲームの話で盛り上がっている。
あれで彼女はなかなか強いのだとそんな話をされて、あまりメディアに詳しくないトキはジャギに曖昧な笑顔を返した覚えがある。
「そうそうそれとさ、こないだ借りた新しいギャルゲー隠しキャラ出たよ!」
「マジか!?、お前攻略法絶対言うなよ!?俺は自分で見つけるからな!」
「はっはー、前もそんなこと言ってたけど、最終的にセーブデータ貸したよねー」
「うるせえ!俺は今度こそ自分で攻略するんだよ!」
「はーいはい、がんばりな」
のジャギに対する上手いあしらい方に感服しながら、トキは食事の片付けでも手伝うかと皿を片付け始めたのであった。
「あのね、あれは春奈ルートの3番目の分岐で上から4つ目を…」
「うわ―!言うな!言うなっつてんだろー!」
さて、彼女が片付けに気づいてくれるのは今から何十秒後だろうか。
「つーか、てめー遊んでねーで仕事しやがれ!」
「「「あっ珍しく正論」」」