腕を組んで街を歩く。
飴玉みたいな丸い眼がくりくりと忙しなく動いて、ある一点でぴたりと止まる。
それからこちらを振り向いて、俺の腕を引き、嬉しそうに笑いながら彼女は言う。

「ジュウザ、あれ!!あれ見たい!」
「はーいはいはい、どれだよ?」

彼女――が指差したのは洒落た小物屋だった。
ナチュラルカラーの造りがいかにもの好みそうな店だ。

「何見んだ?」
「アクセ!」

答える彼女の目は俺ではなく、目の前の店に釘付けだ。
彼氏が一緒に歩いてるってのに、なんて酷い扱いだろう。

(まぁ、甘やかす俺もダメだけどな…)

店の扉をご機嫌な様子で開けると、ドアベルが鳴り終わる前には小物のコーナーにまっしぐらだ。
腹を空かせた猫が餌に向かっていくように、と言えばわかりやすいだろうか。
よく似ていると思う。

女の子が好きそうな店で、俺は特にやることが無い。
ぶらぶらと商品に目を走らせていると、は煌びやかに光を反射するアクセサリーのコーナーで、何かを見つめてうんうん唸っていた。
気配を殺して近づくと、どうやら目下のネックレスにご執心の様子である。
アンティーク調の、これまたいかにもが好みそうなデザインのそれは、なるほど彼女が唸るのもわかるほど、少し値が張っている。

「なーに唸ってんだ」
「わ!なんだジュウザかぁ、びっくりさせないでよー!」

急に声をかけられたので驚いて振り返ったは、口を尖らせて文句を言った。
彼氏の顔見てなんだとはなんだ、と言ってやりたくなったが、の視線はすぐにネックレスに移行してしまって俺は言うタイミングを逃した。
理不尽だ。絶対。

「…それ、欲しいのか?」

問いかけると、は非常に未練がましい顔で俺を見て、もごもごと答えた。

「や、その、別に…」

思いっきり欲しいと顔に書いてあるのに、顔に書いてある見えない文字とは別に正反対な答えを出したは、そろそろ出よう、と言って俺の手を取った。

「おーい、いいのかあれ」
「いーの!」

無理矢理頷いて、は店を出て通りに出た。

「ったく、あっちに行くっつったりこっちに行くっつったり…」
「うっ…い、いいじゃん、ショッピングしたいのっ」

少し拗ねた様子のの顔には、まだでかでかと「あのネックレス超欲しかった!!」と書いてある(のが俺にはよーく見える)。
そんな顔すんなよ、ネックレスに。

「なぁ
「うん?」
「喉乾かねぇか?俺ジュース買って来るからよ、そこのベンチで待ってな」
「え、あ、うん…」

突然待っていろと言われて少し戸惑った様子だったが、はおとなしく俺が指差したベンチに座った。
それを確認すると、俺はすぐにさっき来た道を戻った。


5分ほど経っただろうか。
のところに戻ると、は俺を見るや否や首を傾げた。

「あれ?ジュースは?」
「ん?あー、忘れた」

アホ、気づけ。俺の持ってる袋に!
念じてみたら俺の念が通じたのか、はすぐに俺が持っている小さな袋に気づいた。

「?ジュウザそんなの持ってたっけ?」
「おう、ついさっきからな」

俺はの質問に適当に答えて、持っていた袋を差し出した。

「ほらよ」
「え、何?」
「開けてみろって」

差し出された袋を、は手にとって恐る恐る開けた。
その目が疑問から驚き、驚きから喜びの色に変わるのを見て、俺は一仕事終えた気分になった。

「!これ、さっきの!」
「欲しかったんだろ?唸るくらい」

は目をきらきらさせて袋から取り出したのは、さっき彼女がうんうん唸って未練たらたらで諦めたネックレスだ。
どうせあのネックレスが気になったら俺のことよりさきにそっちを考えるのだから、それならいっそ買ってやろうと思って買ったわけだが、端的に言えばあれだ。

またこいつを甘やかしてしまったわけだ、俺は。

「ジュウザぁー!ありがと!めちゃ好きー!」
「ああ、知ってるぜ」

は感動したのか今日一番の笑顔を俺に向けて抱きついてきた。
ふわふわとした感触を堪能していると、に毒されたらしい、俺まで嬉しくなってくる。

(あーちくしょう)

(かわいいわ、やっぱ)

猫かわいがりと言うなかれ、甘えられるのは嬉しいもんだ。

喜ばれるのもまた、然り。

こういうのも悪くない。

「ほら、次はどこ行くんだ?」
「…!」

身体を離して手を差し出すと、はぱっと顔を明るくさせて俺の手を取った。
この笑顔を見られるなら、少々の我儘も可愛いもんだ。



エスコートは任せとけ、お姫サマ。






ジュウザはデートすると色んなトコ連れてってくれそう!


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