夕食の前のゆったりとした時間、が外に出てきて膨れっ面で俺の隣に座った。
何でああも気がつかないの、あの鈍感め、と愚痴を零している。
バットとリンと一緒に旅をしているは、レイに恋愛感情を抱いているらしい。
それもレイがマミヤを愛していると知った上でだ。

「ケン、ねえどう思う?レイってどこまで鈍いんだろ。ほんとに気づいてないのかな」
「…」

どう答えれば良いのかわからないので、とりあえず笑い返すと、は何さ、と更に機嫌を損ねてしまった。

「ケンまでレイの味方ってわけ?ええ、ええ、いいですよー、男の人に女心なんかわかんないんだから!」

そう思うのならば、よりによってこんな口下手な俺になんか相談をしなければ良いのにと思うも、本人が大真面目だから冷たいことは言えない。
そんなことを考えている間にも、彼女の口からはぽんぽんと愚痴が飛び出してくる。
全てレイの話だ。

マミヤの用意した食事は皿まで舐めるくらいに綺麗に食べるのに、自分のだと食べかすが残っている。
マミヤに言われたことならすぐに済ませるのに、自分が言うと適当に済ませるだけ。

こんな細かいことまで覚えているくらいだ、よっぽど惚れているのだろう。
その惚れた相手が自分のほうを見ていないというのは苦しいだろうに、彼女は前向きだ。
諦めずにレイに積極的に接している。

恋する女の子の力はすごいものだなと、トキが呆れていたのを思い出した。
そんなトキは、自分はユリアを見守るだけに徹してしまったため、少し羨ましいのだと彼女に零した事がある。

「…根気強いな」
「当たり前!恋ってのはね、引いたら負けなの。少なくともあたしはそうお母さんに教わったもん」
「辛くはないのか」
「あのさ…ケン、黙ってたらかっこいいんだから、そういうこと聞くの控えたほうが良いよ。野暮」
「…」

は歯に絹を着せないものの言い方をする。
これが他の誰かであれば腹が立つのだろうが、不思議とそういう話し方のほうが彼女にはしっくりくる。
言いたい事も言えないままなんて嫌だ、と言った、真っ直ぐな性格そのままの台詞が、彼女らしいと思う。

隣を見れば、は膝を抱えて空を見上げていた。
涼しい夕暮れの風が彼女の肩までの髪を舞いあがらせる。

「私だって辛くなることもあるよ。そりゃそうだよ、好きな人が全然自分を意識してくれないなんて、寂しいし悲しいもん」
「…」
「でもさ、泣いたってどうしようもないし、泣いてる暇があったらチャンスを伺わなきゃ!前向きに生きてこそ、楽し
いことも増えるからね!」

元気の満ち溢れる笑顔を見せて、はひょいと座っていた瓦礫から飛び降りると、もうじき食事だと言い残して走っていった。

上を向いて歩く明るい彼女の願いを優先すべきか、友である男の想いを優先すべきか。
なかなか複雑で難しい状況に肩を竦め、ケンシロウもまたその後を追いながら、遠くに聞こえる友の声に耳を傾けた

――ちょっと、レイ!おかずが欲しいならあたしがあげるから、マミヤさんの皿から取らないの!!

――いいだろう別に。交換するだけだぞ?

――だめだったらー!

――なんでだ

――いいからだめー!




(その程度じゃ、そいつは気づかないぞ、。)


ケンシロ夢。友情ならばいけるか!と思い書いたら、まあなんともパンチの効かないものになりました…

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