姿


「月桂樹の木には栄光や勝利といった花言葉が当てられるらしいな。
由来はギリシャ神話の軍神であるアポロンが身
に着けていたからだそうだ」

静かな草原で瞑想をしていると、背後から女の声が聞こえた。
この声は、あの女だ。

「…か。何のようだ」

振り向かずに目を閉じたまま尋ねると、は何が可笑しいのか小さく笑った。

「うん、特に用は無い。たまたま君が座っているのが月桂樹の下だったから、なんとなく声を掛けてみたんだ」
「では去れ。瞑想の邪魔だ」

にべもなく言い放つと、は大げさに溜息をついて、なぜか俺の隣に座った。
さわりと草が揺れる音がして、女の甘ったるい匂いが鼻腔を擽る。
酷く不愉快だ。

「…君は本当に固いな。もう少し肩の力を抜いても悪くないと思うぞ、ラオウ」
「貴様こそ力が抜けすぎているのではないか。店はどうした」
「それなら大丈夫だ。副業をやっているから」

君に心配されるほど困窮してはいないよ、と笑って、は草むらに寝転んだ。
邪魔でこの上ないが、この程度で集中を途切れさせるわけにもいかず、俺はそのまま瞑想を続けた。

はおかしな女だ。
ユリアの友人だというが、あまり共にいる様子はなく、時折北斗の道場に食材を差し入れに来る。
道場のある山の麓でガラクタ屋を営んでいるが、売れていないのは明白で、何故こんなに悠々としているのか
理解に苦しむ。
言動も思考回路も、全てが俺と違いすぎる。

静かに時間が流れてゆくなか、またが口を開いた。

「…月桂樹は」

目を閉じていてもがこちらを向いたのがわかり、俺は半ば意地になってそれを無視しようと試みた。
しかし、は言葉を続けた。

「ギリシャ神話では、太陽神・アポロンに求愛され、それを拒み逃げ惑ったダフネが姿を変えたものだと言う」
「…」
「愛しい人を失ったアポロンは酷く悲しみ、月桂樹で作った冠を生涯身に着けていたそうだ」
「……」

その話が今どう関係するのか理解できず、そのまま瞑想を続けていると、が呟いた。

「皮肉だね。戦いの神とされるアポロンも、たった一つの恋を勝ち取ることはできなかった」
「…だからなんだ」

いい加減鬱陶しくなり、仕方なく早く話を終わらせようと尋ね返すと、は寂しそうに笑い、答えた。

「君の傍のダフネには想い人がいるよ、アポロン」
「…!」

目を開いてぎろりと睨みつけるも、は全く堪えた様子もなく、穏やかに目を伏せた。

「すまない、気に障ったのなら謝る」
「ふざけるな。…殺されたいか」
「それは困る。私はいつもアポロンを見ていたいのに」
「なっ…」

突然何を言うのかと、俺が思わず言葉を失っていると、はにっと悪戯っぽく笑って噴出した。
それを見て、からかわれたのだと瞬時に悟る。

「貴様…!」
「ラオウ、君、今、本気にしただろう?」
「誰がするか!帰れ、気が散る!!」
「ああわかった。修行の邪魔をして悪かったね」
「そう思うならば二度と来るな」
「わかったよ」

予想外にあっさりと頷いたに何か裏があるのかと思い凝視するが、は苦笑して俺の不信な視線に答えた。

「そう警戒しなくても、もう来ないってば」
「…本当だろうな」
「本当だよ。私は君にだけは嫌われたくないから」
「……ふん」

全く真意の掴めないに苛立ちながら、来ないのならばそれでいいと背を向けて、俺は再び瞑想に入った。
は今度こそ本当に帰るらしく、草を踏む音が徐々に遠さかっていく。
その足音を聞きながら、俺は漸く瞑想に集中できると再び目を閉じたが、最後に微かな言葉を耳にした。


「―――私はひまわりでいいさ」

それを意味するのがなんなのかわかるはずもなく、俺はただ妙に引っかかるその言葉を無理矢理頭から打ち消して、心を静めた。


悲しそうな声音だけが、何故か何度も蘇った。


ラオウ夢やっちまいました。拳王様って夢考えるの難しいです。性格壊さんようにするとどうしても悲恋に;
いつか甘夢書きたいです。


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