「殺してくれたっていいんだよ?」
シーツに寝そべって、隙だらけの背を見せたはこちらを振り返りながら哂った。
白い肌が外気に晒されて、暗い部屋の蝋燭の灯りだけが女の身体を照らしている。
「女だけは手にかけないなんて、そんなのこっちが線を越えれば簡単に壊れる理性だ、そうだろ?」
「そんなに殺して欲しいのか?」
「君に殺されるなら好いね。私を殺したら、首は綺麗に保存していつも隣に置いて」
「悪趣味すぎる。ごめんだ」
「あはは、寂しいなぁ。私はこんなに君が好きで死んでからも隣に居たいって言うのに」
「世迷言を」
戦いを終えて昂ぶった俺が半ば感情のままに動いて抱いたというのに、は嫌がる様子は無かった。
代わりに、情事の最中にあっても声一つ上げなかった。
激しく抱かれたおかげで自身は快感よりも苦痛のほうが大きかっただろうに、それでも頑なに悲鳴一つ漏らさないその精神力は、改めて彼女が普通の女ではないことを知らしめた。
苦しそうに歪んだ表情の奥で、うっすらと開いた双眸が絶望と悦楽の色で混ざり合って痛々しかったことだけが、胸の中でもやもやと渦巻いている。
そのが事が終わった後に吐いた台詞が冒頭のそれだ。
何を想ってこんなことを言い出したのか、皆目見当がつかない。
「……何故抗わなかった」
「さて、理由が見つからないな。私は君の僕だよ。何を抗う必要がある?」
「…」
何を、と聞かれれば、無理やり奪った張本人が口にすることもできず、俺は口を噤んだ。
この女に口で勝つのは容易ではないのは十二分に理解している。
しかし平素であればこのあたりで終わる会話に、珍しくのほうが食い下がった。
「ねえ、君はどうなんだ?君についていくと誓った私に、"やめろ下衆野郎、発情期なら他を当たれ、Asshole"と、そんな風に罵って欲しかったとでも?」
「…言葉を選べ、女ならば」
あまりにも行き過ぎた言い方を嗜めると、は小さく哂って身体を起こした。
身を起こしたの肌からシーツが滑り落ち、女の上半身が露になる。
見つめるようなものでもないので視線を逸らして目を閉じると、が小さく息を吐いた。
「…君は好きな女性が誰かを想っている事を知っていながらも自分に抱かれて、それで嬉しい?」
「…!」
「私が欲しかったのは、たった一つの言葉だけだよ。…いくら君でも、これくらいならわかるはずだ、ラオウ」
はそう言い残すと、寝台から衣擦れの音をたてて静かに下りた。
部屋に散らばった己の服を丁寧に身に着けて、髪を手で整えると、傷ついた表情で寝室を出て行った。
去り際に一言、失礼します、と硬質な言葉だけを残して。
温度を失ったシーツは冷えていく。
胸に残ったの瞳が脳裏に焼きついて離れない。
部屋を出るときの、の傷ついた表情が胸の奥を突き刺す。
あの瞳に、声に、髪に、肌に。
いつから囚われた?
いつから、俺は
―――私が欲しかったのは
―――たった一つの言葉だけだよ
いつから、を愛し始めた?
気がついてしまえば随分と簡単なことだったそれは、
同時に彼女をひどく傷つけたのだと激しく己に訴えかけた。
擦れ違いのポルトルーン