君の機嫌を直す方法


右側ががらんと空いた俺の隣は、風通しが良くて落ち着かない。
一人で街を歩くのは久しぶりだ。
いつも隣にが居たから。

もう知らない、と言われたのが3日前。
たった3日、と思われるかもしれないが、3日は結構長い。
きっと、彼女を怒らせて泣かせるのに十分な長さだ。
顔を合わせずに3日も過ぎてしまった。

喧嘩の原因なんてもう覚えていない。
そんな些細なことだった。
なのに、俺はこうして彼女を怒らせたまま途方に暮れている。
いい加減何とかしなければと思うが、何をすればいいのかわからないから、俺は全くどうしようもない。
喧嘩をしたらいつも先に折れるのは彼女だった。
やっぱり喧嘩は厭だ、と言って、縋り付いて来る彼女に、少し甘えすぎていたのかもしれない。

「…くそ」

もう知らない。
そう言った時、は泣きそうな顔で怒っていた。
涙を見せまいと唇を噛んで、怒っているのだと俺に伝えようとして、目を潤ませて俺を睨んでいた。

彼女に泣き顔は似合わない。
怒った顔も、見たくない。

謝りたい、けれど。


「…どうやって切り出せばいい」


悶々として頭を掻いて、俺は視界の端にあるものを見つけた。





「…!」
「…」

3日ぶりに見る後姿は悲しそうだった。
機嫌もとっても悪そうだ。

ああ、悪かったとも。
俺が悪かったんだ、悲しい思いをさせた俺が。
だから、こっちを向いてくれ。

、」
「…なに?」
「これ!」
「!」

俺が差し出したものを受け取って、は目を丸くした。
勢いで押し付けたのはの年の数と同じだけある、赤い薔薇の花束。
ぱさっ、と花が擦れる音とともにの腕に収まったそれは、俺がさっき街で見つけたものだ。
花屋に行くのなんて久しぶりだった。
買うのも少し値が張った。
けれど、これで笑ってくれるなら。

「レイ…これ、」
「悪かった。謝る。この通りだ!」

花束を押し付けて頭を下げると、はそれを見て答えた。

「………ばか、」
「…っ」

やっぱり花くらいじゃだめか、と思って俺は恐る恐る頭を上げる。
けれど、は、

「怒る気無くなっちゃったよ、もう」

笑っていた。

「…!なら、」
「いいよ、許してあげる。私もこんなに怒ることなかったよね」

少し肩を竦めたの顔は俺の一番好きないつもの綺麗な綺麗な笑顔で、それを見て俺の胸はすっと軽くなる。

「そうか、」
「うん」
「…良かった」
「うん。…いい匂いだね、これ」

嬉しそうに花の香りをかいで、はまた笑った。

ああ、もう(できる限りは)泣かさないから、怒らせないから。

そのまま笑っていてくれ、俺の愛しい人。



レイ夢です。恋人設定がなかったので書かねば!と思い立ちました。
月見里の中では「恋人に平謝りが似合うヘタレ男」のダントツが彼…(どういうイメージ)

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