「キスしよっか」
返事を待たずに隣に座るレイの唇を奪うと、彼は目を瞬かせて驚いた様子で私を見つめた――というより、凝視した。
「お、お前っ、シオ!」
「…嫌だった?」
首を傾げて見せると、レイは首を振った。
「そうじゃない、そういうわけではないんだが、その」
その、の後は簡単に予想できる。
多分”そんなに簡単にキスしようとか言うな!”だ。
「そんなに簡単にキスしようとか言うな!」
「……」
ほら、一字一句当たってる。
照れくさそうに頬を掻いているレイをじっと見つめて、私は苦笑した。
レイは恋愛に小慣れている様な顔をしている割りには、実際なかなかこれで純情だ。
だからすぐ臭いことを平気で言うし、かと思いきや中学生みたいな反応をしてくる。
大の大人が照れたり真顔で運命語ったりなんて、傍からすれば滑稽に見えるだろうな、と思う。
(でも)
私が惚れちゃってるのも事実。
「じゃあ、いつならいいの?」
「…がする」
「は?」
私が聞き返したら、レイはこちらをいきなり振り返って突然私の肩を掴んだ。
「!?」
「キスするときは俺がする!」
高らかに宣言したレイの頬は、物凄く恥ずかしい事を言ったかのように真っ赤になっている。
が、実際そこまで照れるほどのことは言っていない…と思う。
まあ、これは自分基準だけど。
でも絶対私のほうが恋愛経験値ある。
こいつより絶対ある。
っていうかレイって一応5人目だし。
「その場合私がキスしたくなったらそうすればいいの?」
「う…そ、それは…教えてくれれば…」
「…それって私から言えって事じゃないの?」
「うっ!」
ずばり指摘されて、レイは今度は真剣に考え込み始めた。
本当に真っ直ぐで、人を上手く使うとか、そういうことを知らない人だ。
(ああ、困ってる)
レイはどうも、“男が女を大事にする”、“女は何もしないで愛されていればいい”という、このご時世には随分古風で絶滅危惧種的な恋愛間を持っているらしい。
だからいつも私を大切にしてくれる。
それはいい。
(でも何もここまでしなくても…)
真剣な顔でうんうん唸っているレイは、もう脳味噌が爆発しそうだ。
でもそうやって悩んでくれているのが嬉しくて堪らないなんて、私は酷い女なんだろうか。
(ああ、もう)
(おバカなんだから)
「レイ」
「うぅ…ん?」
「ね、冗談よ。私、レイがいっぱいキスしてくれたらそれで嬉しいの」
「そ、そうか?」
私の言葉に、レイはすっかり安心したように目に見えてほっとして、それから私をぎゅっと抱きしめた。
純真無垢な女の子ならときめくところかもしれない。
でも私には、顔もスタイルもモデル並なのにちょっとお間抜けで一途で真っ直ぐな彼にこうされると、なんだか…こう、
(わんこみたい…!!)
つい違った方にときめいてしまう。
「全く、可愛いことを言ってくれるな…シオ…」
「レイ…」
今はとりあえず至福に浸る彼の夢を壊さないためにも、うっとりしている彼女を演じておいてあげよう。
でもね、レイ。
いずれ私、あなたに言うわ。
(かわいいのはお前だー!!
)
夢見る犬に愛の手を
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