つい先ほどまで俺の上で啼いていたとは思えぬほどに清らかで幼い寝顔に、まるで純白を汚してしまったような罪悪感をおぼえる。
それでもこの手で奪ったのであれば満足だとも、思う。
矛盾した感情が脳を支配するこんなひとときですら、隣にが居るだけで愛しい。
幼顔の頬にかかった髪を起こさないように払い除けてやると、はくぐもった声を出してシーツに顔を埋めた。
昔飼っていた仔猫を思い出す。
眠っているときに撫でると、似たようなことをしていた。
幼い自分はその仔猫の柔らかい毛がとても好きで、つい調子に乗って撫で続けると目を覚ましたその仔猫は不機嫌そうな目で睨んできたのだったか。
"起こすな、眠いんだ"と言わんばかりに。
も、同じような反応するだろうか。
仔猫とは違い、艶のあるさらさらとした髪を撫でる。
は起きる様子はない。
それどころか幸せそうに髪を撫でる手に顔を寄せてきた。
どうにも、嬉しい反応をしてくれる。
「…」
名を呼んでみる。
起こさないように、けれど起きてくれるように。
身体を抱く力を少し強くしてみる。
はほんの少し抵抗を見せたものの、あっさりとまた寝入ってしまった。
夢の中がそんなに心地よいのかと、そんな下らないことにすら嫉妬する。
お前の意識を奪う夢など見なくてもいい。
俺だけを見てくれればいいのだと、どうしようもない独占欲ばかりが募る。
「」
「…よ…」
もう一度名を呼ぶと、は目を閉じたまま唇を動かした。
寝言だろうか。
耳を近づけると、は確かに寝言を言っているようだ。
「…?」
「リュウガぁ……」
今度ははっきりと聞こえた寝言に、情けないことに顔がにやける。
恋人の名を寝言で呼ぶなんて、なんとも可愛らしいことだ。
夢の中でも俺を見てくれているのならば起こすまい。
夢など見ていないで起きて俺を見てくれなどと思っていた自分を恥じて目を閉じたところで、の寝言の続きが聞こえた。
「…それは矢じゃないよ…ごぼうだよ…」
「……………」
…前言撤回。
どういう夢を見ているのだ、こいつは。
(俺の至福を返せ!能天気娘め!)
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