ワインボトルは空になった。
透き通った淡いピンクの液体を飲み干したのが数分前。
「Pink」と言うその名の通り、甘い桃色の飲み物は喉を灼きながら身体を熱で侵していく。
スパークリングワインはあまり飲んだことが無かったけれど、悪くない。
洒落た名前も気に入った。
気の聞いた手土産を持ってきた男に感謝すべきだと思う。
「それでいつまで放っておかれるわけだ?俺は」
酔いが回って良い具合に機嫌の良いに、テーブルの向かい側のシンが仏頂面でぼやいた。
酒盛りに付き合わされて、あまり好きでないロゼなど飲む羽目になったから、彼は少々ご不満なご様子だ。
丁度良い具合に二人で両極端な感じ。
ふわふわと宙を漂う思考で笑いかけると、シンは困った様子で溜息をついて立ち上がった。
「、来い」
「んーっ」
「んー、じゃない…」
全く、と呆れた顔で、シンは子供をあやすようにを立たせると、軽々とその身体を抱き上げて寝室に向かった。
こういうことは、実はよくある。
の仕事での鬱憤ばらしにシンが大抵付き合わされて、結局彼が泥酔した彼女を介抱するのだ。
おまけに彼女をお姫様扱いしているこの世話焼きの恋人は、甘えられるのがこれでなかなか嬉しいらしく、文句は垂れても一度もの我儘に怒ったことは無い。
二人の関係をよく知るものが総じて呆れたように首を横に振っているのを、彼らは知らない。
「全く…仕方のないやつだな」
「んー、うふふ」
「飲みすぎだ。水は?」
「ちょーだい」
酔ってわけのわからないことをもごもごと漏らすの額を撫でてから、シンが部屋を出る。
その手をはがっしと掴み、引っ張った。
「!…何だ、何か他に欲しいものがあるのか?」
「んー」
「だから、んー、じゃなくてだな…」
一度言った台詞を繰り返すシンに、はご機嫌の表情のままで自分の唇を指差した。
「…お前と言うやつは」
「はやく、」
子供の様に強請るに覆い被さって、シンは零れ落ちる自分の琥珀の髪を右手でかき上げた。
「他には何もいらんのか?」
「うん」
「わかった…」
頷いたの唇を己のそれで塞ぐと、ゆっくりと食むように唇を重ねてから離れる。
唇が離れた刹那、絡み合う視線に甘い誘惑を感じながら、は微笑った。
これだ。
野獣と猛獣使いが同居している瞬間の彼の眼が欲しかった。
だからいつも強請って、甘えて、引っ張って、それから――
「」
「んー?」
「酔いが醒めたら覚悟しておけ…」
脳髄が震えるほどの快感の一歩手前。
「…ん」
その瞬間に依存する |