だ
だだだ、だだだだ、だだだだ。
ソファに体を沈めて、
は断続的に続く雨の音に耳を傾けていた。
だだだ、だだだ。
雨粒が屋根を穿つ音を聞きながら、テーブルに置かれたティーカップに口をつける。今日は今朝からずっとこんな調子で、大粒の雨が
止むことなく降り続けている。
湯気を立ち上らせていたカップを手にして口をつけると、ジャスミンの甘く爽やかな香りで鼻腔を満たし喉を通って落ちた。うんざり
するような雨の昼間、ただ鬱々とした気分を和らげようと茶を淹れてみたのは正解だったようだ。
茶請けに用意したクッキーを齧って雑誌を捲っていると、ソファの反対側がギシリと軋む。
「
。何をしてる?」
「読書」
後ろから尋ねられた問いに短く答えると、髪を後ろで一つにまとめたシンの腕が腰に絡み強く引かれた。
反射的に倒れそうになった身体を支えようと伸ばした手は空を切る。
諦めて重力のままに身体を倒すと、分厚い胸板が私の体重を支えた。
このオレ様め。
「ちょっと…!」
「いい香りだ。オレの分は?」
「……わかったってば。待ってて」
シンが人の話をあんまり聞かないのには慣れているので、私はソファから立ち上がりキッチンに向かった。
ジャスミンティーはまだ沢山ある。友人から旅行土産に貰った大量のそれは、義務感から消費しているうちにいつしか私のお気に入り
となってしまった。
湯をティーポットに注いで茶が出るのを待ちながら、ソファに腰掛けるシンの後姿を見つめる。長い金髪がソファに垂れてさらりと流
れた。
雨の多い時期、シンは長い髪をゴムで後ろにまとめている。
湿気の多い時期に触れ合った時、絡みついてくるそれに私のほうが鬱陶しくなって、嫌がる彼の髪を無理矢理ゴムでまとめたのだ。当
初はオレの髪が気に入らんのかと烈火の如く怒られたものだが、今は一つにまとめたほうが快適だと気付いたのか、自分で勝手に私の
ゴムを使ってまとめてい る。
なんだかんだで素直なやつだと思う……意地っ張りだけど。
「ねえ、テレビつけてよ」
「いらんだろう」
「いいじゃん別につけるくらい」
「観たいものでも?」
「天気予報」
「ふん……これでいいな」
なんとなく音が欲しくなって、適当な事を言ってシンにテレビをつけさせた。
室内にテレビ特有の音声が流れ始める。
『列島全域にかけて伸びた梅雨前線の影響で、本日は明日・明後日と雨になるでしょう。次に東海地方では……』
そろそろ茶が出てきたころだろう、とティーポットの蓋を開けると、ちょうど良い色合いに染まった湯が揺れた。カップにお茶を注い
で、茶請けのお菓子を補充して盆に置きリビングテーブルまで持っていくと、シンが難しそうな顔でテレビを見て いた。
「どしたの」
「明後日は雨だと」
「ふーん」
「……
」
「うん?」
テーブルの上に無造作に置かれた新聞を手にしてチャンネル欄を見ようとした時、シンが徐に肩を抱き寄せてきた。基本的に彼の行動
は、こちらの都合は無視である。
一体なんだと顔だけ向けると、シンはこっちをじっと見つめたまま問いかけた。
「明後日が何の日か覚えているか?」
「祝日でしょ?」
「……はぁ……」
特に考える事もなく答えたら、シンが呆れ顔で溜息をついた。
なんだ一体。
何さ、と文句を言う前に、さっきより強い力でぐいと肩を抱かれる。
「あのな……俺たちが付き合い始めたのはいつだ?」
「……あっ。」
そういえば付き合って2年目の記念日だった、すっかり失念していた。
普通は女子のほうが覚えているものなのかもしれないが、意外とこういう事に関してはシンの方がロマンチストでよく覚えていて、私
はあっさり忘れていたりする。
なんにせよ忘れていたのは良くないから、謝っておこう。
「あはは、ごめーん!」
「ごめんではないわノロマめ!どうやらお仕置きが必要らしいな」
「うわそれオヤジくさ」
「黙れ。どうせ今日も外には出んのだ、運動不足の解消にもなろう?」
肩を抱く手の力が強くなり、喰らいつくような視線にどきりとさせられる。
瞳の中の獣が顔を出して、今にもがぶりと噛みつかれそうな緊張感に興奮する。
「じゃ……いっしょにお風呂入る……?」
誘いを受けて顔を近づけ、耳元で囁いてみれば、シンは満足そうに笑み、服を裾をたくし上げて指を肌に這わせてきた。肌が外気に触
れたひやりとする感覚と、触れられた指先の熱さで背筋に甘い痺れが走る。
「あ、」
「――いや。このままで……」
ウェザーリポート
の思惑通り |