君の匂い
一人でシーツに包まって眠るのは嫌いじゃない。
彼の匂いに包まれて、まるで抱きしめられているような気持ちになれるから。
暖かい、春の花のようなやさしい匂い。
だけどやっぱりどこか堅い、男の人の、匂い。
だいすきなひとの におい。
「ね、ぎゅってして」
私がそういって手をいっぱいに開くと、トキは優しく抱きしめてくれる。
おねだりを断られたことなんかない。
本当に、優しすぎるくらいトキは優しい。
もうちょっと冷たくってもいいくらい。
けれど私がその優しさに甘えているのも事実で、優しくないトキになってしまったらそれはそれで寂しくて嫌だ、なんて矛盾したことを考える。
「トキの匂い」
「匂うかな?」
「ううん。私の好きな匂いなの」
説明すると、トキは気恥ずかしそうに微笑んで、抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。
柔らかい髪が頬に当たる。
大好きな匂いが、私をすっぽり包む。
嬉しくなってつい口元が綻ぶ。
暫くそうしていると、不意にトキが尋ねた。
「」
「うん?」
「君はいま、幸せかい?」
幸せ?
そりゃあ勿論。
だって、トキが居て、私がいて、それ以外の何にもいらない。
「うん、世界一幸せ」
ああ、今、この腕の中で、私もだ、と笑ってくれる貴方がいる限り、
私はいつまでも幸せな抱擁に微睡んでいるのだろう。