甘い花の香りが充満する桜の季節、診療所から帰ると、寝室のベッドの上でシーツに包まって丸くなって眠る恋人の姿を見つけた。
昼下がりのゆったりとした時間に、どうやら春という季節も相俟って眠くなってしまったらしい。
恋人の傍には読んでいたらしい本が無造作に置いてあった。

「…、」

小さく声をかけてみるが、は起きる様子は無い。
不意に吹き込んだ緩やかな風に乗って、桜の花びらがの頬の上に落ちた。

起こさないようにそっと近づき、白く柔らかい頬の上に乗った花びらをそっと摘む。
視線の先を少しずらせば、手にした花びらよりも甘く瑞々しい桃色の唇が目に入る。

眠る恋人の無垢な寝顔を見つめながら、指でふっくらとしたその唇に触れた。
吐息すらも甘く感じる、眩暈がするほど柔らかい感触が、指から伝わる。

キスを何度繰り返しても、この感触に飽きることはない。
はにかむ表情や、嬉しそうに瞼を伏せる様々な表情がいつも口付けと共にあるからだ。

髪を束ねて、そろそろと顔を近づける。
は気づく様子はない。
大人気無いことにも、気配を完全に消しているからだ。

「……いたずらしてしまうよ?」

もっと顔を寄せて、耳元で囁いても、の幸せそうな寝顔は変わらない。
ぐっすりと眠り込んでいるらしい。

が少し身体を揺らせて寝返りを打つ。
ちょうどよく上を向いた唇に、己のそれをそっと重ねた。

触れるだけの甘いキス。
眠る恋人の花弁よりも赤く蜜よりも甘い唇に、繰り返し口付けることのなんと甘美なことか。

数回口付けを繰り返すうち、ようやくが小さくくぐもった声を出して、瞼を開いた。

「…ん…トキ…?」
「やっとお目覚めかな」
「夢…見てた」

寝転んだままたどたどしい口調で話すの隣に腰掛けて、優しく指で髪を梳いてやると、は心地良さそうにうっとりと瞼を閉じた。
また眠られるとつまらないので慌てて問いかける。

「どんな夢を見ていたんだい?」
「トキが…」
「私が?」
「いっぱい…キス、してくれる夢…」

答えたは、いまだ半分夢の中にいるのか視点がゆらゆらと揺れている。
そんな寝惚けた姿が、素直に可愛らしいと思う。

「夢じゃないよ」
「うん…?」
「現実にしてあげよう」

まだ会話を完全に理解し切れていない様子のの上に、覆いかぶさって唇を奪う。
今度は触れるだけではない、大人のキスを繰り返す。
はまだ寝惚けているのか、素直にそれを受け入れた。


眠り姫への口付けは、起こすためではなく酔わせるために。





さあ、あわくあまいゆめをみよう。


えっ、月見里さんコレ何?この過剰に高い糖度何?
うちのトキさんはおとなしい顔してクサイことを平気でします。落ち着け!!
こんな泥と共に産業廃棄物吐くような妄想が止まらない月見里を、誰か病院に連れて行ってください。

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