桜の季節、雷さんから花見に来ないかと誘われて、私は一人で承和の国を訪れた。桜ももちろん素敵だけれど、何より も彼に会えるのが嬉しくて二つ返事で来たものの、運悪く雨になってしまった。
結局、雨で散ってしまう前に少しでも桜を見たいと思って、大きな番傘を一つ差して、二人でゆっくりと街を歩くことにした。

静かに降りしきる雨が傘に落ちて、ぱたぱたと音を立てている。
しばらく歩いていると、桜の名所と言われる場所に到着した。
川沿いに植えられた桜並木が、まるで薄桃色の靄のように川面を彩っている。

青空の下で見られなかったのは残念だけど、川に舞い落ちた花びらが流れていくのはとても綺麗で、思わずぼうっと見つめていたら、隣の雷さんが 私の見ている方向に気付いて口を開いた。

、なにを……ああ……花筏(はないかだ)か」
「え?」

耳慣れない言葉に思わず彼を見返すと、雷さんは川を流れていく花びらを指差して続けた。

「散った花弁が水上に集まり流れる様を、花で出来た筏(いかだ)と喩えてそう呼ぶのだ」

雷さんに言われてもう一度川の上を流れる花びらを見ると、確かに花弁は何十枚、何百枚と固まって、まるで筏(いかだ)のようになって流れてい る。

「花が散るのは残念だが、川面が薄紅に染まる様は風情があるものだな」
「そうですね……本当に綺麗です」

彼の言葉に頷いて、二人でしばらく川べりの桜を見ていたら、ずっと雨の中にいるせいか羽織物を着ているのに肌寒くなってきた。我慢しようとし たものの思わず腕を摩ってしまい、それに気づいた雷さんが声をかけてきた。

「!……寒いのか」
「あの……少しだけ。でも平気です」

心配をかけたくなくて笑い返すと、雷さんは自分の着ている羽織を脱ぎ、私の肩にふわりと掛けてくれた。少しだけ残る彼の体温が羽織から伝わっ てくる。

「着ていろ」
「でも、これでは雷さんが……」
「俺ならばどうということはない」

雷さんは力強い微笑みで私の心配を拭い去り、傘を持つ私の手を何気なく取った。

彼の掌は大きく、ところどころ皮が厚く硬くなっていて、武芸を嗜む男性らしさを感じさせる。少しだけかさついているけれど、温かいこの手に触 れられると、何とも言えない安心感に包まれるようだ。

「冷え切っているな……城に戻るぞ」

彼はそう言って私の手を両手で包むと、何気なく自分の口元に持って行き、ふっと温かい息を吹きかけて冷えた指先を温めようとしてくれた。気遣 いが嬉しいのはもちろんだけれど、いやらしい事をしているわけでもないのに何故かどきりとする。

鼓動が早くなり、慌てて手を引っ込めようとしたけれど、今度は逞しい腕にひょいと抱き上げられてしまった。

「あ、雷さん……!」
「これ以上身体を冷やしては風邪をひく」
「自分で歩けますから……!」
「惚れた女を雨に濡らすのは本意ではない。諦めて大人しくしているのだな」

彼はそう言って、切れ長の眼を細めて優しく微笑み、傘を私に持たせて城へと足を向けた。

人を抱えて雨に濡れた道を歩くのは大変なはずなのに、雷さんは何でもないようにしっかりと足を進めていく。その鍛え上げられた腕や厚い胸は温 かくて、逞しさが伝わってくる。

やがて城が見えてきた時、ふと雷さんが足を止めた。

「雷さん?」
「……ああ。いや、なんでもない」
「あの……やっぱり重かったのでは……」
「違う。ただ……」

雷さんは首を振り、じっとこちらを見つめてから、ずっと視線を外して呟いた。

「……お前を離すのが、惜しいと思ってしまったのだ。許せ」
「あ……」

彼はそう照れ臭そうに呟くと、再び足を前に進めた。呟いたその声に宿っていた熱に、私の胸の鼓動も増していく。

やがて城に着き、傘を畳むと、ついに雷さんの腕から離れる時が来た。彼は私をそっと下ろして立たせると、私から畳んだ番傘を受け取った。そし て名残惜しそうに私の頬に触れ、何を思ったか再び番傘を開いた。

「雷さ――……」

また出かけるのかと思って声をかけようとした時、番傘を傾けた彼の腕に捉えられ、私の声は途中で熱い唇に吸い込まれていった。

「んっ……ふぁ……!」

傘を目隠しに、彼の腕に抱きしめられて深く激しい口付けを受けて、頭がぼうっとする。
堪らずに逞しい肩に縋り付くと、雷さんは耳元に顔を寄せ て、低い声で囁いた。

「……やはりまだ冷えている……これは、暖めてやらねばなるまい……?」

雄を潜ませた彼の吐息は熱く、獲物を捕らえた獣のような情熱を孕んでいた。

有無を言わせない強引さに、部屋に連れられた後の私は、ただ彼の熱を蕩けながら受け止めることしか出来なくなっていた――。



某チャットアプリで仲良くしてくださっている方に送りつけた ブ ツ。
夢100ストーリー仕立ての姫様視点となっております。
短いのでぴくしぶには出してません。
てか雷これで10代とか信じられんのですが!
精神年齢だけなら20代後半やろ!!!
 
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