メジスティアのジークの自室で、恋人にクリスマスプレゼントを渡すために彼を訪ねた は、真っ赤な顔をしたジークに彼からのプレゼントについて説明されていた。

「……ですので、やはりここは、私の忠誠心をと……!」

 頬を染めて緊張しながら自分の贈り物は忠誠心だと口にしたジークを見て、 は彼を可愛いと思った。普段は落ち着いて立ち振る舞いもスマートなジークが 彼女の前でだけ見せる態度は、恋愛の経験が浅い彼女にとってはとても安心するものだった。 勿論、ジークが慣れていなかった為に、恋人関係になるまでは もヤキモキさせられたりしたわけだが。

「ありがとうございます。それじゃあ、お返しに私のプレゼントも貰っていただけますか?」

 にこりと微笑んで、 は用意していたジークへのプレゼントを差し出した。 銀の紙に紫のリボンがかけられた小箱だ。

「わ、私に……!?」
「はい。開けてみてください」

  の言葉を受けて、ジークは彼女から手渡された包みを恐る恐る解いていく。 可愛らしくラッピングされたそれはどうやら少し重い、硬いものが入っているようだった。
 リボンを解いて中身を目にして、ジークは驚きの声を上げた。

「これは……!アヴァロンの砥石ではないですか!」

 箱から取り出されたものはアヴァロン産の質の良い砥石だった。 武器で有名なアヴァロンでは、それを研ぐための質の良い砥石も豊富に取れる。 両手剣用の大きな砥石はもちろん、片手剣用の持ち歩けるサイズの砥石もだ。 片手剣を持つジークとしては、いずれ手に入れたい品の一つであった。

「先日、手に入れる機会がありまして……その、 ジークさんなら使ってくださるかもしれないと思って」
「………」

 はにかみながら照れ隠しの為にと石を選んだ理由を述べた を、 ジークは言葉も無くじっと見つめた。わざわざ自分の為だけに彼女が贈り物を選んで くれたこと、しかも欲しかったものがまるで心が通じ合っているかのように 出てきたことが嬉しくて堪らず、声が出なかったのだ。けれど はそんな彼の様子に気付いて、 喜ばれなかったのかと思いすぐに表情を曇らせる。

「あ……あの……やっぱり、可愛げのない贈り物でしたか?ごめんなさい、 私、なにを差し上げたらいいのかわからなくなってしまって、 剣をお使いになるからって安易に……」

 ジークは何も言っていないというのに勘違いをした は、 一人でおろおろと慌てている。不安げな の声に、 ジークは我に返ると優しく彼女の頬に手を添えた。

「どうかそのような顔をなさらないでください。私は今、 天にも昇るほど感激しているのです」
「え……」
「いつか手に入れたいと思っていた品を貴方から頂けるとは夢にも思わず ……驚いてしまいました」
「そ……そうだったんですか。良かった、私、 てっきりプレゼント選びを間違えたかと思って……」

 ジークの言葉を聞いて、 は自分が早とちりをしていた事に気付いてほっと胸を撫で下ろした。
 彼女がジークに贈った砥石はアヴァロンの兄弟王子を目覚めさせた際に 見つけたものだった。目覚めさせた礼にと街を案内してくれていたカリバーンから、 “アヴァロンは剣を研ぐための砥石も上質なのです”と説明をされた時に、 これはジークへの贈り物にできるのではないかと思いたったのだ。 ちょうど冬が近づいてきたこともあって、今度会う時にクリスマスプレゼントを贈りたいと思っていたものの、 何を渡そうか悩んでいた彼女にとっては最高の選択をしたつもりだったので、 こうして喜ぶところを見られると悩んだ甲斐があったというものだ。

「プリンセス……本当にありがとうございます」

 恭しく手の甲に口付けを落とすジークの唇の優しい温度に照れ臭くなって、 は言葉を詰まらせて、あの、いえ、と舌が絡まったようにもごもごと返す。 君の手の甲への口付けはジークにとっては当たり前だが、 にはいまだに 慣れない行為の一つだ。毎度のことながら、 が手の甲を抑えて赤面していると、 ジークがぽつりと呟いた。

「……ですが、これでは私が貰いすぎているような気がしますね」
「?貰いすぎって、そんなことは――」

 そんな事はありませんと言おうとした だったが、ジークは何やら彼の中で勝手に自己完結して答えを出してしまったらしい。

「ではこうしましょう!プリンセス、明日の朝まで私は貴方の望むことを叶えます」
「望むこと……?」
「ええ。何でもおっしゃってください」

 まるで思いが通じ合った時のようなジークの申し出に面喰らいながらも、 は自分の望むことを考えた。 彼女は彼からなにか、物が欲しいわけではない。ただ一緒に居られればそれでいいと思う。
 けれど、せっかく一緒に過ごすなら。

「……なら……ん……まずはそこに座ってください」

  が戸惑いながらもジークにベッドに腰掛けるように頼むと、ジークは不思議そうに首を傾げた。

「座ればよろしいのですか?」
「はい」

 座ってどうしろと言うのかわからなかったが、 ジークはとにかく彼女の言う通りベッドの端に腰掛ける。すると、 彼の前に が立ち後ろを向いたかと思えば、よいしょ、 と言って彼の膝の上に腰を下ろした。

「プ、プリンセス!?なにを……!?」
「えっと……膝に乗せて抱きしめて欲しいなって思ったんですけど、」

  が後ろ向きに座ったため、狼狽えるジークからは の表情が伺えない。 けれど彼女の耳がリンゴのように赤く染まっているのを目にすると、 ジークの胸に熱いものが湧き上がってきた。

「……っ、」
「その、あのっ、意外に恥ずかしいですね、これ!やっぱりキャンセルで……っ!」

 たまにはぎゅっと抱きしめられたいという願望を叶えてもらおうと思いジークの座っては見たものの、 やはり恥ずかしくなっておりようとした の腰に、彼の両腕が回される。

「!あ、あの、ジークさん……?」
「…………キャンセルなどと、どうか仰らないでください。プリンセス」

 後ろから回された腕に引き寄せられ、 の首筋にジークの少し熱い吐息がかかる。 耳元で囁かれる甘い声にひくりとからだを震わせた は、真っ赤になって俯いたものの、膝から下りる事無くじっとしていた。というよりは、今は 逃げられない気がしたのだ。
 腰に回った腕は の身体を強く抱いて、離れそうにないから。

「――望み……もう一つ、追加していいですか……?」
「どうぞ……プリンセス……」

  の耳を擽る低くて甘いジークの声が、彼女の思考を蕩けさせてゆく。 鼓動が早くなり、熱に浮かされるようにして、 はもう一つの望みを口にした。

「……このまま……私の名前を呼んでください……」

 か細く、どこか艶を含んでいる恋人の声に、ジークはそっと片腕を離して、 彼女の肩にかかる髪を指でするりと除けると、露わになった首筋に唇を寄せて恋人の名を囁いた。

「…… 。」
「!……っ、」

 じんとした甘ったるい痺れが の首筋から身体中に広がる。
 名前を囁いた途端に身を固く緊張させた恋人を、 ジークはそっと抱き上げて横抱きにし、彼女が怯えないようにと柔らかく微笑んだ。

「さあ……次の望みを仰ってください。私のプリンセス……」
「……ジークさん……」

 囁くジークの頬も微かに赤く染まっていることに気付いて、 はふわりと笑顔を見せ、三つ目の望みを口にする。
 ちらちらと降り始めた雪と共に、優しい騎士の口付けが、 の柔らかい唇にも静かに落とされる。 
雪を溶かすような熱い口付けの後は、甘い夜が待っている。





LINEのジークさんクリスマスメッセージ読んで萌え禿げた。
もうお前そのまま首にリボン巻いて姫様の所に行けばいいよ。
最後の流れが公式に似ちゃったのでもうちょっとだけヘタレを頑張らせてみました。
これもぴくしぶには出してません。
タイトルはマラ/イア・キャ/リーの定番クリスマスソングから。
イルミネーションの写真は ミントBlue様か らお借りしました。