「それでですね、あの人なんて言ったと思います!?"お前みたいな小娘の小枝のような身体など興味は無い"って言うんです!!信じられません、どういう神経してるんでしょーか!小枝って失礼すぎますよ!!」
「はは…まあまあ」
「年頃の乙女に言うセリフじゃありません!あの人、私のこと小猿か何かだと思ってるに違いないです!」

どちらかと言うとチワワだと思うが、とソウガはどうでもいいことを思いながら、の愚痴を聞いていた。

こうなるに至った理由は単純で、いつもの如くリュウガに仕事を色々押し付けられて文句を言ったら更に叱られたが半べそで仕事をしているのを見兼ねて、ソウガが声をかけたわけである。

リュウガとは大抵セットでいじめっ子&いじられっ子のような関係なので、今日のようにリュウガにずばずばと酷いことを言われたがべそべそしながら歩いている様子はそれほど珍しい光景でもないが(それもそれで問題だ)、流石に半泣きの若い娘を放っておくほどソウガは冷たい人間ではないし(曰く)リュウガのようにどえすでもないのだ。

ソウガが話を聞いてやると、は相当鬱憤が溜まっていたようで、次から次へとリュウガに言われたことややられたことをソウガにチクった。
それはそれはたくさん。

「この間なんか何もしてないのにほっぺた抓られて!何するんですかって聞いたらですよ!?"お前の無駄に幸せそうな顔を見てるとイライラするのだ"だって!ダ●ンタ●ンの浜●よりも100倍えすですよリュウガさんは!!」
「そ、そうか」

は拳を握り締めてぬぬぬ、と怒りを現すも、その姿はどう見てもチワワがキャンキャン鳴いている程度にしか見えない。
きっとこういうところがいじられる原因なのだろうな、とほのぼのとソウガが考えていると、視界の端に白いものが映った。
それを見て、ソウガは慌ててを宥めた。

「ストップだ、
「きっとリュウガさんはサディスト星の王子様なんです!ん?あれ、それは別の何かで聞いたことあるような…まあいいや」
、おい」
「大体こんなうら若きオトメに対してですね、貧相とか体型が悲劇的とか言うのおかしいですよ絶対、下マツゲのくせに」
「おい、ちょっと、待て」

と言うかマツゲは関係ない、マツゲは。

「きっと嗜虐趣味でもあるんです確実に。お部屋とかドッキリで調べたら間違いなくムチとかムチとかアブナイ木馬とか出てくるに決まってます!」
「ほお?俺は別にそういう趣味は無いんだがな」
「またまたー、わかってるんですからね、ホントは荒縄くらいは隠し持って…いるん、じゃ」

背後から聞こえた大人の世界仕様セクシーヴォイスに、は一瞬固まって顔を真っ青にした。

「ないな」
「………………………ぎょわ―――――――――――――!!?」
「だから止めたのに…」

知らんぞもー、とソウガが匙を投げると、が青い顔で助けを求めるようにソウガを見た。
が、現実は無情である。

「リュリュリュリュリュリュリュウガさ、」
「なかなか戻ってこんから探しに来てみればこんなところで油を売っていたのか」
「あ、ああああのすいませんすいませ」
「で?誰がサディストだって?」
「みっ……!!!!」

背後に星か花でも散りばめられていそうな上司のまばゆいばかりの素敵な笑顔に、はまるで某国民的アニメのお化けト●ロが毛をぞわぞわさせたかのような感じで硬直した。
普通の娘なら頬を染めるところで蒼白になって冷や汗を流すあたり、彼の性格をよく理解しているなとソウガは思った。
自業自得ゆえに助ける気にはならないが。

「下マツゲとも言っていたな?嗜虐趣味とか。誰のことだ?ん?」
「そそそそんな誰もリュウガさんのことだなんて言ってないですよ、ってぎゃー言っちゃったー!?」

墓穴掘りすぎである。

「そぉぉかそれほどムチでシバイて欲しいのか。知らなかったぞ、お前がマゾヒストだったとは」
「ちちち違います違いますぅぅぅ!!」
「いや、気が付かなくて悪かった。そうだな、ではこれから5分遅れるごとにムチ打ち一回でどうだ?嬉しいか?」
「やめてくださいごめんなさいごめんなさいごめんなさぁぁい!ヒー助けてソウガ様ー!!」
「…はぁ」

どうにも情けない遣り取りに眩暈がしそうになりながら、ソウガはとりあえずリュウガに言った。

「リュウガよ、その辺にしておけ。流石にカワイソウになってきた」
「何を言っている、こいつは苛められるのが好きなのだぞ?そうだろうマゾヒスト?」
「ひーん違うんですぅぅ、」
「いや泣いてるだろう明らかに」

傍らでシクシク泣き出したを指差して、ソウガは苦笑いしてリュウガに言った。

「ほどほどにしておいてやれ。お前とて部下に"リュウガ様のご趣味は雑用の女の子をイジメること"なんて思われるのは嫌だろう」
「…ふん」

ソウガの言葉が効いたのか、リュウガはそれ以上を追求する素振りは見せずに踵を返すと、去り際にめそめそしているに言った。

「サボった罰として、明日は一日、一人で資料室の片付けだ。いいな」
「ひゃ、ひゃい!」
「おいリュウガよ…あそこは…」
「少々散らかっているが、これも仕事だ。文句は無いだろう?」
「…好きにしろ、オレはもう何も言わん」

資料室といえばなかなか手が回らずに、少々どころではなく完全にカオスと化している場所である。
それをに一人で片付けさせるとは、流石はサディスト星とやらの王子様。

「頑張れよ、…」

まだ少しべそをかいているに同情の念を込めた目を向けて、ソウガは溜息をついた。

今日も拳王府は平和である。

一時間くらいで書いたショート・ショート。拍手&ご来店、毎度ありがとうございます!! 
無性にソウガと絡ませたかったんですソウガと、ってあれこれ気づいたら狼夢みたいになってるよどういうことかねコレは
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