瞳の温度
"アクアマリンを嵌め込んだみたい。"
狼と呼ばれた瞳をそんな風に喩える女は初めてだった。
女、というよりは、娘だが。
「そんな大それたものではない」
「何でですか?私、リュウガさんの眼、綺麗でとっても好きですよ」
笑顔でさらりと大胆なことを口にするは、いつもは俺に対して真顔で恥ずかしいことを言うなという。
全く、どちらが恥ずかしいのだか。
手放しに褒められるのは苦手だ。
ストレートに好きだと言われるのは、嬉しいことだがどうにもこそばゆい。
褒めてくれる相手が恋人であるからというのもあるかもしれない。
年下の恋人は純情で素直で、自分が感じたことを躊躇わずに口にする。
「触ってみたいです」
「目潰しする気か」
「そういう意味じゃないですよぅ」
ころころと笑うの瞳は、黒目とは言ってもよくよく見ると栗皮のような甘い茶色をしている。
のそんな平凡な色の瞳のほうが好ましいと思う。
派手な女のぎらぎらとした眸よりも、ずっと心が安らぐからだ。
の容姿で艶やかなのは烏の濡れ羽色の髪だけで十分だ。
そうでなくとも悪い虫がたくさん寄ってくるのだから。
「触ったら冷たかったりして」
「そんなわけがあるか」
「冗談です。それに、ちゃんとわかってますよ」
「何をだ?」
"冷たそうでも、ちゃんとあったかいってこと。"
妙に気恥ずかしくて強く抱いたら、がカエルのような声を出した。
「もう少し色気のある声を出せ、全く」
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