ドワーフが棲むという洞窟に意を決して足を踏み入れたものの、数分で早くも決意が折れそうになった。何でって、洞窟みたいな暗くてじめじ めしたところには当然、あんまり楽しい気分になれないものが存在するからだ。

「無理無理無理無理無理無理」
「おい、何をしている。いいからさっさと来い」

ラーハルトがサクサクと歩く足元には既に足の本数が多い生き物がぞろぞろと湧いている。
直視したら泣きそうなレベルで、モソモソ、ぞろぞろ。
こんなもんか弱い女子が平気な顔して歩けるわけない。

「だって虫!!節足動物的な虫がっ無理ヤダ気持ち悪い、いっぱいいるとかナイナイやだーーー!!」
「ならそこで突っ立っているんだな。オレは先に行く」

虫が湧いてき始めた辺りで立ち往生している私を呆れ顔で振り返り、ラーハルトはにべも無く言い放つと更に奥へと足を進める。置いてけぼり はごめんだけれど、気持ち悪くて足が動かない。

「やだやだやだ!!置いてかないでコワイコワイ!ラーハルト待って、いやああラーハルト様ーー!」
「一人で楽しめ」

ラーハルトは驚くほど鮮やかに私を置いて奥に進んで行ってしまった。そうですよねそこまで優しくエスコートなんてしてくれませんよねわ かってましたとも。魔族ってなんでこう優しさが足りないのかな。ロンさんとラーハルトが特別そうなの?レディを置いていくなんて信じられ ない、とはいえ、私も腹を括らねばならん事くらいわかっている。

「ううぅぅぅううぅ……!」

こんな所に置いて行かれて目的も達成せずに帰ったらロンさんに生ゴミを見るような目で見下されて足蹴にされる。それ以前に、全世界の人間 の命がかかっているかもしれない。虫が怖いとか言ってる場合じゃない……本気で怖いけど。
深呼吸を一つして、涙目になった目元を拭い、身体を浮かせて一気にラーハルトの所まで飛び、勢いよく背中にしがみつく。後ろから首に腕を 回してがっつり抱きついてきた私に、ラーハルトがぎょっとして声を上げた。

「なっ、離れろ!!」
「ごめんムリ!このまま虫のとこ、一気に走り抜けて!!」
「はあ!?」

気持ち悪い大量の虫をほんの数秒で克服なんて出来るわけない、ということでここはもう、ラーハルトに頼ろう。自分の足で進めなんて言われ てないんだからこの際だ。いわゆるお化け屋敷の時によくあるやつで、虫が平気な人にくっついて一緒に抜けさせて頂くことにする。

「……ちっ」

若干鼻声で半泣きなのが伝わったのか、ラーハルトは舌打ちを一つして私を背中にくっつけたまま洞窟の中を駆けだした。時折頬をかすめるも のが何なのか、目を閉じているからわからないけれど、虫以外の何であろうと目を開ける気にはならない。

「!?ぎゃああーーーー!!入ったっ!!服の中入った!!!」
「暴れるな!黙らせるぞ貴様!!」
「ひいい取ってお願いすいませんホント怖いの虫取ってえええええ」

しがみついたままで背中に入った何かの不快な感触にパニックになって悲鳴を上げると、ラーハルトが苛ついて声を荒げる。通常ならびっくり するような声だったが、パニック状態では効果が無い。虫がいる場所を通り過ぎたのか、ラーハルトは一度停止してしがみついている私を無理 矢理引っぺがした。

「やかましい!自分で取れ!」
「駄目ムリ触れない取って!!いいから!!おっぱい触ってもいいから!!二揉みくらいは許すからッッ!!!」
「誰が触るか!」
「うわあああ早くしてえええ移動してきたーーー!!」

虫らしきものが臍の辺りから胸元に向かって這い上がってくる不快な感触に更に恐怖心が増す。喚いて叫んで、パニックで私がビキニに手をか けて今にもおっぱいを全出し寸前になっているのを見て、流石にラーハルトもこれ以上は面倒なことになりかねないと判断したらしい。一度だ け溜息をつき、手早く胸元に手を伸ばして虫を取り払う。

「……取ったぞ」
「ほ、ほんと?もうついてない?」

服の上とか、わかる場所にもついていないか心配で半泣きの状態で尋ねると、短く「ない」とだけ返事が帰って来た。

「っっっっありがとーーーー!!!」
「抱きつくな鬱陶しい!」
「ううう怖かった……もうあんた最高!!死ぬまで感謝するー!」
「いいから離れろ、くそっ……!」

恐怖の原因を取り除いてもらった事でとにかく安心して勢いで思いっきり抱きついたところ、ものすごく迷惑そうに引っぺがされた。あれ、潔 癖症かなこの人。虫のおかげでテンションのアップダウンが激しいので許していただきたい。

その後、どうにかドワーフたちを見つけ出して、黒魔晶とブルーメタルを入手したわけだが――





「よくよく考えると私、あの洞窟であんたに思いっきりおっぱい押し当てちゃってたよねえ」
「げほっ」

ふと昔の事を思い出して尋ねると、ラーハルトがコーヒーを噴きかけた。

ちなみに私はカウチソファに座ってコーヒーを啜っていた彼の膝の上に乗り、広い肩口に頬をぺたりとつけて顔を 見上げている状態だ。
 
「な、……ごほ、……!?」
「ねえねえ柔らかかった?私のおっぱい」
「〜〜〜〜阿呆ッ!!」

青い顔を更に濃い青にして、ラーハルトは乱暴にその場にあった本を引っ掴んで開いた。顔が青くなってるのは人間が赤くなってるのと一緒 で、要するに照れている状態。あからさまな照れ隠しが可愛く見えて、つい悪戯心が擽られる。

「ラーハルトさーん?」
「うるさい離れろ暑苦しい」
「んー?そんな冷たいこと言う人にはもう一回おっぱい当てちゃおっかなー」
「やめんかっ!」
「あれ?ぱふぱふ嫌い?」
「……いい加減にしろ ……!!!」




At that time,




割愛してしまった洞窟探索編の一部。
別名夢主おっぱい丸出し未遂。
洞窟の中って虫がいっぱいいるイメージなので、これくらいのハプニングはあるはず。

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