生殺しの刑に処せられた長い一夜を気力で乗り越えた翌日、踊りの世界で輝かしい記録を手にして戻ってきた と肌を重ねた。踊りの世界についてはよく知らないことが多いが、彼女の獲った頂点は今後の仕事に大いに役立つという。二人でささやかながら少しばかり豪 勢な食事を摂り、大衆浴場で身を清めた後、宿の狭いベッドでどちらからともなく抱き合って触れ合った。

行為の経験が無いわけではない。しかし魔王軍にいた頃の相手といえば、ミストバーンがどこからか連れてきた玄人の女だったし、それも 片手で足りる程度しか回数がないので、恋人を抱くというのは が初めてだ。発散する目的ではなく、愛したいというだけで繋がることの幸福を知った。

甘い香りのする柔らかい肌に触れた瞬間、一晩かけて煽られ続けた理性が吹き飛んだ。ただひたすらに腕の中の彼女を愛して食らい尽く し、しなやかで甘い身体を獣のように抱いて貪った。彼女はどうにか制御しようとしていたような気がするが、聞いてやる余裕が無かっ た。彼女を感じ続けていたくて夢中で動いていたら気づけば は喉を枯らしてぐったりしていた。我に返って慌てて肩を揺さぶったら、彼女は呆れた様子を見せつつ、枯れた喉で愛の言葉を口にして眠りに落ちた。

窓から差し込む朝の光で目覚めると、恋人はまだ腕の中でぐっすりと眠っていた。
彼女の寝顔は旅の最中にも見た事があるが、何度見ても飽きない。目を閉じると思い浮かぶ、笑ったり怒ったり呆れたりと、忙しく変わる 表情。泣かせてしまったことが心苦しいが、泣き顔すら、とても綺麗だと思った。

地底魔城で対面した時は派手で気が強そうな踊り子だと思っていたが、憎しみに狂ったオレの怒りを静かに全て受け止めて背中を押す優し さを持っていた。得意気に振舞ってくれる料理はどれも味わったことがない美味なものばかりだった。見かけによらず誠実でしっかりして いて、意外と家庭的な特技に興味が出て、気がつけば目で追っていた。そして今も目に焼きついて離れない、木苺を摘む後ろ姿。夢を追っ てひたむきに自分を磨く姿。何もかも受け入れて、一日に何度も表情を変える、海のような女性だと思った。

緩やかに波打つ黒髪を一房手に取り口付ける。髪の甘い香りが一層空気を濃密にしていた。昨晩は完全に箍が外れてしまった。無理をさせ てしまった事を少し反省している。オレを感じて何度も絶頂しては弛緩する淫らな姿に衝動が抑えられなかったのだ。

が身動ぎして、なだらかな肩からシーツが滑り落ちた。露になった首筋のラインに引き寄せられるように口付ける。想い続けてようやく掴まえた愛しい女は、 遂にこの手に抱かれて隣にいる。

愛しくてたまらない。ずっと触れていたい。首筋に、肩に、鎖骨にと、啄ばむ様に口付けると、キスの刺激で が瞼を震わせた。目を開けた彼女は寝惚けているのか焦点の合わない目でオレを見て、幾度か瞬きして柔らかく微笑み小首を傾げて言った。

「……おはよ。」

愛する人と朝を迎える幸福感を改めて感じる。堪らない気持ちで、しなやかな身体をシーツごと抱き締めてみれば、 が甘えるように首に手を回してきた。可愛い、愛しい、言葉に出来ない感情が湧き上がってくる。

「ん……ふふ、苦しい……」
が可愛いのが悪い……」
「可愛いならいいでしょ?」
「離したくなくなる」

腕の中で がくすくすと笑う。ようやく掴まえた愛しい人が幸せそうに微笑んでいる。彼女が光り輝く限り、オレの抱えた闇が大きくなることは無いだろう。深い愛で罪 ごと包んでくれたかけがえのない存在がここにいるから。

「一つ……頼みがあるんだが」
「んー…?」
「以前、ロン・ベルクの家で作っていた、ワインを入れた料理を……作ってくれないだろうか……」

戦禍の中で切り取られた幸せな一瞬、 が作ってくれた料理を思い出す。
野菜を切る包丁の音と、湯気を立てる鍋の煮える音、何もかもを覚えている。
まるで夢のような一時の中で、彼女は言った。

『いつか奥さん出来たら作ってもらいなよ』と。

“いつか”など来ないと思っていた。

伴侶にしたい人の傍にすら、居られないと思っていたのだ。

しかし今、あの日の“いつか”はすぐ傍の未来となり、誰よりも求めた人が隣にいる。
の長く細い指がオレの髪を撫でた。

「…いくらでも作ってあげる」

瑞々しい唇が優しい声音で言葉を紡いだ。喜びに満ち溢れた笑顔を閉じ込めたくなる。
愛を囁くなら一晩では足りない。溢れる想いなら、一生かかっても足りないだろう。
まずは離れていた間に溜まり溜まった愛を囁く所から始めよう。
この海ならば、湧き上がる愛を全て受け止めてくれると思えるのだ。




Mother Ocean






らぶらぶえっちの翌朝。ハグ好き兄さん。兄さんは素人DTだと思う。
この後夢主が次回はペースダウンするようにやんわりと注意します。


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