食糧の配給を受け取りに行った帰り道、雨が降り出した。小雨だからそう急がなくてもいいかと思っていたら、予想を裏切って雨は激しさを増してくる。 雨は止まない。この調子だと夜まで降り続けそうだ。少し雨脚が弱まったら、その間に急いで帰ろう。考えた矢先、雨脚が勢いを弱めた。 「?」 雨の中、所々破れた傘を差した女が――己の恋人が、立っていた。 「…何してんのよ」 押し付けられた傘を持つと、は隣に立って歩き始めた。 「、何か用があって出てきたのではなかったのか?」 雨の中の散歩も悪くないと思っただけよ、バカ。大体こんな暗い日に女を一人で置いていくなんて信じられない。 は一気に捲くし立てて、2回ほど同じ言葉を繰り返し、足を速めた。その頬が、耳が、ほんのりと紅いことに気づかないほどトキも鈍感ではない。 「ありがとう。迎えに来てくれて」 ああ、それはそうだったな、いい間違えたんだ、ごめん。無茶苦茶な流し方で半ば一方的に完結させると、は食い下がろうとはしなかった。知っているのだ。口では勝てないことを。 そして、トキも知っている。 きみがいる、それがすべてだ。 優しい暴君
ああ、いけないな、これでは食料が濡れてしまう。早く帰らねば彼女も心配するだろう。否、心配してくれていると、願いたい。
今だ。配給品が濡れないように腕で庇いながら走ると、数十メートル駆けたあたりでトキは足を止めた。
「…」
どうしたのだろうか。伝え忘れたことでもあったのか。帰ってからでよかったのに。どうせ彼女に頼まれたら、自分は断れまい。
呆然と立ち竦んでいると、が口を開いた。
「え?」
「帰るんでしょ。傘、持って」
「え、あ、ああ…」
濡れるじゃない、傘持ってるのあんたなんだから早く来なさいよ、と怒られ、慌てて追いかける。
「別に」
さっさと帰ってきなさいよ。寒いんだから。バカ。
「ち、違うわよ!!散歩だって言ったでしょ、今度変なこと言ったら張ったおすよ!」
口で力で勝っても負けても、彼女の存在が己にとっての世界の理だと言うことを。
過程をすっ飛ばして書いてしまった青薔薇のお二人です。一緒に住んでたりしますがお気になさらず。