横たわる男の寝台に腰掛けて尋ねる。 ねえ、何であたしを選んだの。どうせ一緒に居たって上手くいかないよ、あたしみたいなのが相手じゃ。 心のどこかでは否定して欲しいと願うくせに、正反対の言葉ばかりが吐き出される。は思う。人間はなんて難しいのだろう。己の感情や、本当の想いすら言葉にすることが出来ないなんて、と。 「…?どうしたんだ…?」 トキが寝台から身体を起こして、頬に触れた。じわり、と掌の温もりが伝う。同時に、濡れた感触が伝わった。 「何故、泣いているんだ?」 言われて初めて、己が涙を流している事に気がついた。 あんたには関係ないわよ、別に泣いてたわけじゃないんだから。 言ってしまった事は元に戻せないのに、後悔するような言葉ばかりがまた吐き出された。 違うの。 トキの手も、嫌いじゃない。温かくて、優しいから。 知っていたはずなのだ。この感情を、なんと呼ぶのか。 だから、彼と一緒に居てもいいと思ったのだから。 その優しさに甘やかされているということを知っている。己もまた、甘えているということも。けれど。 知っているよ。わかってる。 囁かれて触れた唇は、しっとりと熱を持っていた。
好きで、嫌いで、嫌いで、好きで。
どちらが本音なのかと聞かれれば、それは「好き」なのだと願いたい。これはしかし願望である。の場合、トキに対する想いを口にすると「嫌い」で、心の中では「よくわからない」と定義されている。
けれど、一緒に暮らしている限りは嫌いではなのだと、思う。思うだけで、本当は嫌いなのかもしれない。けれどそうではないと、やはり確信する。
彼に触れられても、逃げたいとも不愉快だとも思わなくなってしまったから。だから、これはきっと嫌いではない、と言うことなのだろう。
けれど、好きどうかと聞かれたらわからない。男を、異性を好きになるなんて、にはもう二度と無いはずのことだったから。
「…っ、」
濡れている?どうして。
「…え?」
心地よい男の手を振り払う。
違う、違うんだ、あたしはこんなことを言いたいわけじゃない。本音ばかりが心に積もって、の心は言わなければいけなかった言葉でどんどん容量を満たしていく。
そうじゃない、そうじゃなくて。
「…ああ、そうか。目にごみでも入ったんだろう?擦ってはいけない、瞬きをして、そう、ゆっくりだ」
トキの声は嫌いじゃない。静かで、心が落ち着くから。
「」
心地よい体温が伝わる。男に抱きしめられているのだと理解しても、彼の優しい腕から逃れる気にはならない。
大丈夫だ、私はここに居るよ、君の傍にずっといる。
静かに囁かれる言葉を受け止めて、は目を閉じた。
泣いていても、トキは理由は聞かない。あえて聞かないで居てくれるのが、彼なりの優しさなのだろう。
「あたし、嫌いじゃないわ。あんたのこと、嫌いじゃない」
あいしているから。
いちゃついてんのか慰めてんのかわからんであります、軍曹