『リュウガさんは、神様を信じますか?』

『信じるわけがなかろう。拳王様のあの強さを目の当たりにして』

『あんまりロマンチックじゃないんですね……』

『神を信じるかどうかで、ロマンチストかどうか測っていたのか?』

『そうじゃないですけどぉー』






『いるって思った方が、私達の出会いがもっと素敵に感じるじゃないですか!』






リュウガは思った。

神の有無よりも、彼女の笑顔の方が大切だと。




















神様のいる世界。

















核戦争の影響で、気候が変化してしまったのか、夏は凄く暑い。
それが、この世界。
は額の汗を拭ってそう思う。
そして、後ろで涼しそうな顔をしている男を見た。

「何だ?」

すぐさま返事は返って来たけれど。
涼しそうですね、なんて言えるはずもなかった。

「なんでもないです」

視線を仕事に戻して、恋人であるリュウガの涼しげな様子を忘れようとした。
少し仕事が残ってしまい、終了時間(とはいっても、リュウガの終了時間だ)に間に合わなかったのである。
ラオウとソウガに直接もらった仕事なので、リュウガも仕方なくさせているわけなのだ。
しかし、涼しげな顔には苛立ちも含まれていた。
それはそれでいつもの日常なので、 は気にしていない。
気になるのは、やはりその涼しげな顔なのだ。

涼しげ、と言っても、普段と変わるところがない、と言った感じだろうか。
どんなに気温が上がろうが、リュウガの表情に暑さは感じられない。
寒さも同じく。
暑ければ汗をかき、ぐったりする にはよく分からない。
ラオウやソウガも口では「今日は暑いな」と言いつつ、汗1つかいていない。
そんな輩ばかりが集まっているのもそうだが、リュウガは特に暑さを感じていないのではないか。

まさか。

は、突然立ち上がった。
そして、真っ先にリュウガの目の前に来る。
仕事が終わったにしては静かすぎる、とリュウガは思い、目の前に立った恋人を見た。
ソファーに座っているので、視線は珍しくリュウガが下である。

「リュウガさん!!」

何か切羽詰ったような声で、 は言う。
そして、リュウガに抱きつくかと思えば、その逞しい両肩に手を置いた。

「何か重い病気とかそういうんじゃないんですか!?」

「……は?」

彼女との関わりはすでに長い。
旅もしてきたし、仕事も時には一緒になる。
恋人にさえもなった。

それなのに。

「お前は、馬鹿か?」

「ちょ、私が本気で心配してるのに!!」

「話の意図が掴めん。これ以上俺に何をどう考えろと言う?」

恋人の思考は時々分からない。
どうすれば、自分が突然重病人になるというのか。
に会う為に、仕事もかなりのスピードで終わらせてきたというのに。
むしろ、無駄なくらいに健康体だ。
今頃何処で何をしているか分からない愚弟並みに健康は維持している。

「だって………」

の視線は逸れる。

「だって、暑いって言わないじゃないですか」

少し恥ずかしそうに、彼女は言ったのだ。
それを聞いて、リュウガは呆れた。
目の前の娘は、人が暑いと言わないだけで重病と勘違いするというのか。
もちろん、リュウガも暑さは感じる。
ただ、暑いと口に出すことが見苦しいと感じているので、言わないだけだ。
身体の感覚は正常に機能している。

「お前は本当に阿呆だな」

「な、何でそうなるんですかぁ……」

リュウガは、 の手を取った。
そして、自分の頬に触れさせる。
ひんやりとはしていた。
しかし、生きた人間の温かさがある。

「暑さは感じている。体温は低めだが家系だ。ユリアも低かった」

ユリアはリュウガの大切な妹だ。
機嫌のいい時には、思い出話をしてくれる。
だから、 も見たこともないユリアを知っていた。

「俺を死人か病人のように扱うな。ちゃんと暑さも感じているが、言わないだけであって、ちゃんと………」

リュウガがそこまで言った時、 は彼に抱きついた。
彼の肩や首に顔を擦り付けて、微笑んでいた。

「よかったー、病気じゃなくて!」

自分にじゃれ付いてくる子猫のような存在に、リュウガは少しだけ呆れた。
しかし、嬉しかった。
どんな小さなことにも気づいて、そして自分で答えを出す。
それが

「暑い時は暑いって言ってくださいよぅ。心配しちゃうじゃないですか!」

抱きついてきた は、リュウガの膝の上に乗っていた。
しかし、2人きりなので、気にしないのだろう。
彼女はニコニコ微笑んで、恋人を見つめている。
こんなに上機嫌なのは、滅多にない。
リュウガも、微笑んだ。
優しい、穏やかな微笑みだった。

いつもは、天狼星のリュウガなどと呼ばれて、冷たい雰囲気の男だった。
微笑むことなんて、滅多になく。
無表情で他人の命を殺めることも、拳王の命令に従うこともある。
しかし、そんな彼でも人間だ。
こうやって愛する人を得て、変われた。
彼は獣ではない。
狼ではない。

リュウガという1人の男。

忘れていたものを目の前の彼女が思い出させてくれた。
かつて、この荒れた時代を生きる為に捨て、忘れ去ったものだった。
ユリアがケンシロウとの道を歩み、自分も新たな道を探したのだ。
その果てに、彼女がいた。

神はいる。

リュウガは、彼女を抱きしめてそう思えた。

「リュウガさん?」

自分を抱きしめて、何も言わなくなってしまったリュウガ。
小さな胸に額を押し付けている。
それが、とても恥ずかしい。
少しでも膨らみが大きければいいのだが、生憎成長は思うようにはいかないのだ。

「ど、どうかしちゃったんですか?」

「いや………神がいることを信じただけだ」

「えー?」

神はいる。
だから、リュウガと を巡り合わせてくれた。
こんな荒れ果てた何もない世界で。
こんな危険で悲しい世界で。
世界はどんなものであろうとも、2人一緒にいられる。

かつて、彼女は言っていた。
神がいると信じた方が、自分達の出会いがもっと素敵に感じる、と。
あの時は、恋人の戯言程度にしか受け取っておらず、それよりもずっと の笑顔の方がよかった。

しかし、今は違う。

彼女との時間が増えて、長く一緒にいるようになった。
これから先のことも考えるし、やがて来るであろう将来のこともやや頭に浮かんではいる。
ラオウの覇業が成り、この世界が落ち着いたならば、家庭があってもいいだろう。
もちろん、相手は だ。
彼女以外を考えたことはない。
2人の間に子供がいて、その子を腕に抱く日が来ても、いいはずだ。
ふとした時に、まだ来ぬ未来を描く。
明日の些細なことも、遠い将来の夢も。
全ては が与えてくれて、そして、幸せを感じさせてくれる。

明日も生きよう。
まだ生きていよう。

そう思えてくる。

そして、神の存在を感じるのだ。
何処からやって来たのか分からない を自分と巡り合わせた。
何故自分が選ばれたのか分からない。
しかし、確かに神はリュウガを選んだ。
天狼星のリュウガを。

この世界で運命を持つ男はたくさんいる。
その中で、唯一としてリュウガを選んだ。

それはまさしく、神としか言いようがない。

「そ、そうだ、リュウガさん!今度、拳王様も誘って何処かに行きましょうよ!」

リュウガは顔を上げた。

「拳王様はお前のように暇ではないぞ」

「えぇ〜!?でも、たまには何処かに行きたいじゃないですかぁー!!」

「寝言は寝て言え」

「ひ、酷ッ!!じゃあ、私が直接拳王様に聞いてきます!それでOKだったらいいですね!?」

リュウガは、ころころ変わる の表情を見た。
そこに幸せを感じる自分は、この世の何よりも幸せだと思う。

「リュウガさんは、何処かに行くのが嫌なんですか?」

自分を見つめてくる綺麗な顔に、 は不安を感じた。
何故か、いつの日か彼と離れてしまうような、そんな感覚に陥ったのだ。
そんなことは有り得ない。
自分が望むことは絶対にないし、リュウガだって望まないはず。

もしも、神様が気まぐれを起こさなかったら。

「拳王様であろうとも、付属が多いのは好かんな」

「え?」

を引き寄せて、リュウガは言った。
耳元で、強く、甘く。

「お前と2人きりならば、何処にいても同じだ」

その言葉に、 は顔を真っ赤にさせてしまった。























「あの、神様っているって思います?」

目の前の少女は、そう言って彼女に詰め寄った。
名前も知らない村で出会った同じ年頃の女の子。
出会いは偶然。
しかし、妙に気になって、彼女は近寄った。

「私に聞かれても困るんだけど」

少女はそう言って、ジュノを見た。
ジュノは、その少女と同じくらいの年代で、何となくだが似た雰囲気を持っている。
少女は気づいていた。
自分達が同じような境遇にあることに。

別の世界から来たのだということ。

「ロマンチックじゃないんですねー。つまらない」

「神様がいるかどうかで、ロマンチストかどうか測ってたの?」

その言葉を聞いて、ジュノは何だか懐かしいと感じた。
何処かで、誰かにそう言われたような。
そんな気がしたのだ。
懐かしい。
大切な誰かにそう言われたような気がする。

「ジュノ」

少女は呼んだ。

「代償をくれたら、貴方にいいことを教えてあげるわ」

その少女はそう言って、手を出した。
その手は荒れていた。
長旅の疲れと、人々を癒してきた苦労から。
そして、彼女の持つ拳法家としての生き方のせい。
しかし、少女に後悔はない。

ジュノは、いいことと言われると何だか気になった。
自分の持ち物をひっくり返して、何か渡せそうな物を探す。
元々持っている物は少なくて、渡せる物など何もなかった。

「何もないですよぉ……」

諦めた声でジュノが言うと、少女は笑った。

「貴方の記憶でいい」

「ええ!?」

「私と出会ったことの全てをもらう」

記憶喪失のジュノにとって、それは苦痛だった。
これ以上の記憶を失うなど、嫌でたまらない。
耐えられるはずがない。
大切な自分の記憶。
それが、奪われるのだ。

本当の名前すら、分からないのに。

「それは、嫌です……」

「私は別にいいのよ。でも、記憶をくれたら、貴方はもっと大切な物を得る」

「大切なもの?」

ジュノは気になった。
その大切な物とは何なのか。
記憶のない彼女にとって、それはとても魅力的だった。

「ほんの20分くらいよ。忘れても、貴方の人生には支障がない」

「でも………」

「私は貴方の人生にとって、必要がないわ。でも、これから教えようとしていることは、凄くいいことよ」

「本当に、そんなにいいことなんですか?」

「ええ、凄く、ね?」

少女の顔は、笑っている。
ジュノは、頷いた。

「記憶、あげます」

「ありがとう、ジュノ。貴方はいい選択をした。じゃあ、教えてあげるわ」

少女が耳元で囁く。
















「貴方は、もうすぐ本当の名前を知ることが出来るわ」

















ジュノは、フラリと歩き出した。
その姿を少女は見つめる。

「魔女も楽じゃない」

少女はそう言って、歩き出した。
自分の運命を。
人を癒し、旅を続ける。
彼女も探しているのだ。
自分の行き先を。


呼びかけられて、ジュノは前を見た。
ディ・ロンが彼女を呼んでいる。
話をしたいという男がいるというのだ。

それが運命だとも知らずに。
ジュノは知る。

自分の名を。

自分の運命を。

魔女との記憶を代償に、彼女は名前を知った。
そして、自分自身の運命も感じた。


砂漠の魔女と胡蝶のジュノは別々の道を歩む。


二度と交わることはなかった。











スペシャルサンクスな月見里のお姉さんに捧げます。
はい、すみません。
全然ほのぼのじゃねぇ。
しかも、勝手に我が家とリンクしてる。
ちょっとやってみたくって。
すみません。

↓で許してください!!

隣のお兄さん。
北斗現代パラレル/幼馴染設定

2008.08.22





ひー!何たる幸せか!
月見里キナコ、死んでもいいです!!
北崎あさみさまより頂きました夢、おまけにうちのヒロインで書いてくださいました…!
もーあんまりにも再現率高いので萌え死ねるかと思った。
そうなんです、このカポーはこういう感じなんです。
しかも狼兄様がうちの子にぎゅーしちゃってるよ!
やっべ、興奮するわァ…(落ち着け)
おまけで頂いた夢も最高で、こちらもすんばらしいのです!
是非ともごらんあれ!
北崎さん、ありがとうございましたぁぁぁ!!