開口一番にそう尋ねてきた男は、引きつった顔で挙手したを見て大いに落胆した声を出した。 「…なんだよ、あの野郎…話が違うぜ…」 十数分前。 「やっぱりディロンさんについてけば良かった」 不本意ながら、ジュウザに預けられることになってしまったは、さらに不本意ながら彼に抱きこまれる形で彼のバイクに乗ることになった。 「ぎゃう!」 不機嫌に切り返すに、ジュウザは、はっ、とつまらなそうに身体を離し、ハンドルを握りなおした。 「ま、俺もお前みたいなガキにゃ勃つもんも勃たんし?別にいーけどな」 ジュウザの言葉に、は顔を真っ赤にして肩を震わせた。 「おー、怒った?」 ふん、と鼻息荒く言い放ったの様子に、ジュウザは苦笑した。 「お前、おもしれえな」 喚くに辟易して、ジュウザはバイクを走らせることに専念することにした。 「…うぅ…ディロンさんのばかぁ…」 彼の知り合いにはろくな人物がいない。 扉を開けたジュウザが振り返り、に入るように促した。 何それ、と女達が笑う。 「…この方達は…?」 笑っていた女の一人が、に尋ねた。 「あんた、名前は?」 あっという間に女性達に腕を取られ、おたおたしているうちには浴場に連れて行かれた。 もうどうにでもなれ。 がっくりと項垂れたが浴場に向う道中、思ったことである。 思いませんでした、といいながら、は隣の女性をちらりと見た。 でかい。 何処って、胸とか胸が。 自分の貧相な身体を見て、人知れずため息をついて、はユナと呼ばれた女性に腕を引かれて風呂場に入った。 二日ぶりに身体を清められて、はほっと息を吐いた。 (…仕事仲間って感じじゃないけど…) 悪友のような感じだろうか。 「はー…うー…」 が髪の痛み具合に不満げな声を漏らしていると、サラと呼ばれていた女性が声をかけてきた。 「(乳が!!)イヤ、特に何もされてないです(セクハラ発言以外は)」 がそう答えると、サラは意外そうな顔をした。 「あら、そお?あんた磨けば光ると思うんだけどねー」 会話の最後の最後まで、つい目が女性の顔ではなくその下に向ってしまったのは、の所為ではない。
「よう、お嬢ちゃん。ここにナイスバディのジュノって女がいるはずなんだが、知ってるか?」
「それは大変残念でしたね!」
恐る恐る手を挙げたを見て、男――雲のジュウザと名乗った――は、一瞬停止し、その後、はあああ!?と、年頃の娘に対して、とんでもなく失礼な反応を示した。
話によれば、ディ・ロンは彼を断らせないためにわざと美人で良い身体の女を預かれと言ったようである。
約束は約束だ、と断られなかったから良かったものの、これはちょっと年頃の自分に失礼ではなかろうか、とは頬を膨らました。
あのディ・ロンのことだからろくな友人ではないだろうとは予想していたが、ここまでとは。
「一人で何言ってんだ?」
「ほっといてください」
となれば、当然身体は密着することになる。
はそれが不愉快だった。
ディ・ロンの知り合いとはいえ、何故くっついてバイクに乗らねばならないのか。
この男、もう少し離れてくれないか。
あからさまに不愉快な顔をしていると、突然肩の上にジュウザが顎を乗せてきた。
「お前な、もうちょっと色気のある声出せよ」
「残念ながら、いまの所そういうものが自分にあるとは思ってませんから!」
「顔は可愛いのに、ガキだなホント」
「嬉しくないですっ」
「なっ、勃ッ…!?」
言うに事欠いてそれか!と今にも叫びだしそうである。
「怒ってないです!!」
「私は面白くないです!」
「はいはい、そーでちゅかー」
「こ、子ども扱いしないでくださいよぅ!」
預かり物は五月蝿いが、退屈しのぎにはなりそうだ。
*
ジュウザのアジトはそれなりに立派で、大きかった。
バイクから下ろされて、言われるままについていくと、城の中で様々な女や男達とすれ違った。
ジュウザのほうは彼女達に挨拶したり、時にはスキンシップをして見たりと上機嫌だが、はただそわそわと居心地悪そうに周囲を見回した。
それは彼と行動を共にしてからの身にしっかりと染み付いた常識である。
例えば、ディ・ロンがよく利用する情報屋は旧政府の元幹部だったという噂があるし、武器を仕入れる店の連中は何れも一癖も二癖もある者ばかりだった。
ちなみに、が使用しているナイフに塗ってある薬は、あまりにも偏執的過ぎてメディスン・シティーの霊薬研究室から追い出された人物から仕入れたものである。
フラスコの棚で埋もれた地下室に巣食う、分厚い眼鏡をかけた、痩せた不健康そうな肌色の男だったのをはよく覚えている。
大きく開けたホールには、華やかな女達が集まっていた。
「よう、帰ったぜ」
「おかえりぃ。その子は?」
「琥珀のやつが押し付けてきやがったんだよ。世話してやってくれ」
状況が飲み込めないは、肩を落として、ジュウザに尋ねた。
「ここに住んでる。俺の面倒見てくれてんだ」
「…そうですか…」
「あ、です。ジュノ、とも呼ばれます」
「二つ名前あるんだー?」
「かわいーい!敬語よケイゴ!緊張してるのー?」
「いえ、特に…」
「ねえサラ、ユナ!この子お風呂に入れてあげましょうよ!いいわね、ジュウザ」
「おう、好きにしな」
*
「う、うおおおう…」
「やっだ、うおおおう、って!って面白いわね!」
「イヤ、だって、こんな広いお風呂だとは」
ディ・ロンのせいでこんな目にあっているのだと思うと胸がもやもやしてきたが、を風呂場につれてきた女性達は好意的に接して
くれているので文句を言う気にはならなかった。
それにしても、ジュウザはディ・ロンとはどういう関係なのだろう。
ディ・ロンなら、ジュウザのような男とつるんでいてもおかしくない。
またあとで聞いてみようと思い直して、は髪を洗い始めた。
何だかここ数日で一気に痛んだ気がしてならない。
「大丈夫?あいつに何もされてない?」
「へ?」
とてもステキなバディの女性だ。
思わずバーンと出た一点に目が釘付けになり、は慌てて目を逸らした。
今までこんな美乳を見た事が無かったので仕方ない。
「そう。ごめんなさいね、ジュウザって女好きだからさ。イヤならイヤって言わないとだめよぅ」
「はぁ…あ、でも、本人が私みたいな子供には気分にならないって言ってたんで。大丈夫だと思います(乳が…)」
「へ?」
「まあいいわ。嫌がるようなこと何もされて無いならそれでいいの。これからよろしくね」
「あ、はい。よろしくお願いします(乳が…!)」