衣類も詰めた。 「、準備はできたか」 荷物を掴んで忘れ物が無いことを確認してドアを開けると、開いた扉の外でリュウガの手から荷物を受け取り、行くぞ、と肩を軽く叩いた。 互いに抱え込んだものを洗いざらい吐き出してから2日後、2人は城を発つことになった。 リュウガは、拳王軍を離脱する事を決めた。 「やけにすっきりした顔をしているな」 リュウガはの少ない荷物を馬に積みながら、悩みが減ったようで何よりだ、と微笑んだ。 「夢見が良かったのかもしれないです」 相槌を打ちながら、荷物の積み込みを終えたリュウガがに小さな袋を投げた。 「今日のお昼ですか?」 リュウガはを先に馬に乗せると、自分は彼女を後ろから抱き込む形で守るように乗り手綱を握った。 「行くか」 とりとめのない会話をしながら、2人で馬に揺られる。 視界の半分を埋める空の青さに目を細めながら、はリュウガに問いかけた。 「そーいえばリュウガさん」 軽口を叩きあっていると、赤茶けた地平線の向こうから物騒なエンジン音が近づいてきた。 「そら見ろ。お前がぼやくからだ」 理不尽な言い草には頬を膨らますが、リュウガは拘泥することなく涼しい顔での頬を突いて空気を抜いた。 「来るぞ。構えておけ」 文句を言いながらは銃を構えた。 「裏切り者には死だァァァ!!」 ぱん! 「ぎゃっ!!」 眉間に弾を食らった標的はバイクごと地面に転がって動かなくなった。 「十分優しくしているだろう。他の女なら馬から蹴落としている所だぞ」 恋人への文句に続いて、銃声が響く。 「2人まとめてぶっ殺してやるゥァァー!!」 ぱん! 「ぐえっ!」 こちらのバイクと標的も地面とキスをして昇天した。 「理解できているなら頭に異常は無いな」 背後で馬を操る男の声が僅かに覇気を失くしたのを感じて、は早々に最後の標的に狙いを定め、撃った。 「死ねェェェェ!!」 ぱん! 「げえっ!」 地に伏した標的を、2人を乗せた馬が華麗に飛び越える。 「リュウガさんこそ、後悔しないでくださいね」 撫でようとしたら引っ掻かれるし 抱きついたら噛みつかれるような気がする、けど
水も井戸からしっかり汲んでおいた。
食糧も城の厨房から持ち出して詰められるだけ詰め込んだ。
護身用のナイフと銃はいつも持ち歩いているし、銃弾はこの間南斗の街で手に入れておいた。
早朝、部屋に備え付けられていた鏡の前で身支度を整えていると、準備が整ったらしいリュウガがドアをノックした。
「!はい、今出ます」
リュウガの身体も既に動けるほどまでに回復している。
5日ほどしか休む事が出来なかったが、既に偵察隊にはリュウガ敗退の情報を掴まれている。
襲撃らしいものも受けた。
が一人でも撃退できるレベルばかりだったためどうにかやり過ごせているが、これ以上城に留まるのは危険だという判断から、城を出る事になったのだ。
「そうですか?」
「ああ」
彼の台詞に、はそうですねぇ、と肩を竦めてみせる。
気持ちが軽くなっているのは確かだ。
何故かはわからないけれど、もう大丈夫だと胸を張って言えるような気分になっている。
「そうか」
受け取った袋の中身を検めると、小分けしたビスケットが入っている。
「今夜の分だ」
「身体持ちます?」
「問題ない」
「怪我人なのに?」
「怪我人でもな」
「心配ですよぅ」
「…ならば昼は一枚ずつにする」
「良かった」
「…敵わんな…」
「まずはあそこですよね?」
「気は進まんが、な」
城は徐々に遠ざかり、堅い岩肌を砂風が撫でるのが見えた。
「何だ」
「兵士さん達が帰ってくる前に出て来ちゃいましたけどいいんですか?」
「…」
「…あの…もしかして忘れ「雲が出てきたな。急ぐぞ」や、晴れてますって!」
音に気づいたリュウガは面倒臭そうにに漏らす。
「ええ!?私のせいなんですかぁぁ!?」
そして、むぎゅう、とおかしな声を出したに淡々とした声で指示を出す。
「うぅ…!ちょっと優しくなったなーって思ってたのにっっ…!」
馬上という不安定な場所で、しかしの銃口はぶれない。
トリガーにかかる指から続く腕は真っ直ぐに、標的を定める。
指を動かせば、叫びながら突っ込んでくる敵の眉間のど真ん中に銃口から飛び出した弾が突き刺さる。
煙を上げるバイクを視線の端に流して、リュウガは手綱を操り、が次の標的を狙いやすいように馬を走らせる。
「リュウガさんの優しさって意地悪と同意語なんですか?」
今度は前方に転がったそれらを、リュウガはまた手綱を操り避ける。
「…ホントになんで私こんな人好きになったんだろう」
「後悔するか?」
屍を越えていくとは正にこの事だ。
は空になった薬莢を取り出すと、銃を仕舞ってリュウガを振り返った。
擦り寄ったら睨まれるし
「拾ったからには最後まで優しく面倒見なきゃダメですよぅ?」
「優しくされたければイイ子にしていることだ」
「…ほんっと意地悪」
その眼も、爪も、牙も、鋭いようで優しいから
「相手が私じゃなかったら絶対振られてます」
「相手が俺でなければ一生嫁に貰われんだろうな」
あなたの牙や爪が血に塗れても
「私、リュウガさんのこと一生好きでいます」
「ほう、奇遇だ」
「?」
全部、抱き締めさせて。
「俺もお前を一生愛する事にしたのでな」
「…知ってます」
死すら二人を別つ事が出来ないくらい、きつく。
ジェヴォーダンの獣を抱き