リュウガの発言もあんまりだがラオウの発言もあんまりだとソウガが微妙な顔で首を傾げると、レイナが小さくため息をついた。 「。先日ピアノを弾いていたそうね」 レイナにそう言われては、は嫌とは言えない。 「…かしこまりました。特務士官・、これより任務に就かせていただきます」 「キャー!様ほっそーい!」 化粧室…というか、仮装室のようになっている色とりどりのドレスが置いてある部屋で、は人形のようにのろのろと腕を上げてドレスを着せられた。 「あの、レイナさん」 が情けない声を出すと、レイナは苦笑した。 「いくらパーティーに出席させられるとはいっても、ここまでしなくてもいいんじゃ…私、そんなに可愛くないですし…」 が助けを求めるような顔をすると、女官の一人が力強く首を振った。 「せっかくこんなに綺麗な髪と肌をお持ちなのです!確かに傷はありますが、コンシーラーと若さで十分カバーできますわ。様は十分に可憐です。もっと自信をお持ちになって!」 ちらりと鏡を見て、は頬を染めた。 「動きにくいぃぃ」 女官長に怒られて、はびくっと身体を竦ませた。 「女官長、完成かしら?」 最後のピンを丁寧に挿し終えて、満足げに頷いた女官長を見て、レイナも嬉しそうに微笑んだ。 「それじゃ、兄さんとリュウガを入れてあげましょうか。外で待っているはずだわ」 ガチャリとドアを開け、予想通りそこに立っていた二人を見て、レイナはほらね、とにウインクした。 (大丈夫、褒められはしないかもしれないけど貶されもしないはず!)←不憫 その一方で、レイナに呼ばれての"仕上がり"を見に来たソウガとリュウガは、以前少し飾っただけの――といってもあれはもう仮装だったが――彼女とは比べ物にならないほどしっかりと飾られたを見て思わず言葉を失って感嘆した。 「「……!!」」 細身の肢体を覆う、濃紺のホルターネックタイプのロングドレス。 「いかがでしょうか、ソウガ様、リュウガ様」 女官長に満面の笑みで尋ねられて先に我に返ったのはソウガだった。 「いや…驚いたな。別人のようだ。その…とても、綺麗だと思う」 純粋に褒められて、は少し顔を赤くして礼を言った。 「リュウガ、どうかしら?」 レイナが面白そうに黙ったままのリュウガに声をかけると、リュウガはしばらくドレスアップしたを見つめて、おもむろにに近づいていった。 「女官長」 女官長がさまざまな色の口紅を差し出すと、リュウガはその中のひとつを選んで、が付けているローズピンクの口紅を丁寧にハンカチで拭き取った。 「わ、わ」 混乱するとは対照的に、リュウガは涼しい顔をしての顎をくいっと持ち上げ、選んだ口紅をルージュブラシで綺麗に塗っていく。 「んっ…!?」 すごいことをやらかしている男の顔が矢鱈良い上にの格好が綺麗なドレス姿のため、妙にファンタジーできらきらした雰囲気が二人の周りに作られてしまい、その場に居たものはその光景にいろんな反応を示した。 「まぁ…」 上から順に女官長、レイナ、ソウガの反応である。 「…お前はこの色の方が良い、」 その瞬間、の顔がぼん、と音を立てて真っ赤になった。 「あらまあ本当。こちらのほうがずっと素敵ですわ」 女官長がのんきなことを言う。 「せいぜいお上品に振舞うことだ。転ぶなよ、特務士官」 真っ赤になって喚くを面白そうに眺めてから、リュウガは妙に得意げな顔でソウガを振り向くと、さっさと部屋を出て行った。 「…やるわね、リュウガ」 侮りがたし、と腕を組んでコメントするレイナにソウガが少しまだ赤い顔でツッコミを入れた。 「は、早く行くぞ!遅れる!」 中途半端に不器用な兄のエスコートを見送り、レイナがはあ、とため息をつく。 「こういうことは、リュウガのほうが一枚上手ね」 実の妹に結構シビアな事を言われているとも知らず、ソウガはを用意した車に乗せて聖帝の城へと向かったのであった。 聖帝・サウザーの城でとソウガを出迎えたのはユダだった。 「これはこれは、ソウガ殿。今宵はあなたが仕官のパートナーか」 パターン通りの言葉を述べるに、ユダはつい、との姿を眺め、その腕と右足の傷に気づいて顔を顰めた。 「…傷痕は」 それを聞いてソウガは美を追求するユダが女に一切の傷も許さない男だと言うことを思い出し、を背に庇った。 「平気です、ソウガ様」 がへろっと気の抜けた笑顔を見せると、ソウガは渋々の前から退いた。 「あの、この傷痕は隠すつもりはないんです。どうせいくら隠したってもう消えるわけでもないし、それならいっそ悪あがきしないでスパッと出しちゃおうと思って。多分そのうち薄くなると思いますし…でも、もしお嫌でしたら上着も持ってきてありますからそれを羽織ります」 が照れた様子でそう答えると、ユダは少し呆れた様子で笑い、言った。 「…なるほど。それはそれで潔いと言えなくもない。ではもう何も言うまい、無理に隠さなくても構わん。広間にご案内しよう」 険悪な雰囲気にならずにすんで、はほっとしてソウガを振り返った。 「なんですか?」 自分を見上げる頭ひとつ分背が低いに、ソウガは少し躊躇ってから手を差し出した。 「?」 ほんの少し顔を赤らめ、へろっと微笑んで、はその手をとったのだった。
「これはこれは、拳王軍の軍師殿。遠いところを良くぞ参られた」 ソウガが以上に形だけの謝辞を述べると、ユダがサウザーにを紹介した。 「サウザー様。こちらが先日話したピアニストです」 サウザーにじっと見られて一瞬後ろに下がりそうになったのを堪えて、は女官長に叩き込まれたパーティーの席での礼をして名乗った。 「拳王軍特務士官・でございます。本日はお招き頂き、まことに光栄です。聖帝サウザー殿」 サウザーの指示で子供達の一人がソウガとの椅子を引いた。 「どうもありがとう」 が礼を言ってくるとは思わなかったのか、その子供は驚いた顔をして、それから少しだけ微笑んだ。 |