下着泥棒ならぬストーカー騒動から2週間。
結局アミバの件は、彼の上司のウサに貸しを作るためと、があえてタコ殴りにして全裸に剥いて吊るし上げて写真撮ってばらまいて慰謝料請求して挽肉にしたいところを抑えた。
リュウガとしては火あぶりくらいまでやってもいい気分だったが、

「これでウサ様に貸しが出来ておまけに黙らせられるなら安いもんですよ。バカの不祥事で得をしました」

と暗黒発言をかましたので何も言わないことにした。
その瞬間彼女の背後に黒いものが見えたことはその場にいたラオウとリュウガしか知らない。

元々かなりウサに嫌がらせをされていたらしく、それをなんとかしたかったのだという。
絶え間ない不幸続きで神経が以前より図太くなったようだ。
権力の位置づけは難しいものである。
ちなみに彼女の腹黒発言は、リュウガの中で可及的速やかに"聞かなかったこと"として処理された。
愛の力はかくも偉大なものだ。

「お前も随分と強かになったな」
「誰かさんに鍛えられましたから。…あの、それよりリュウガさん…」
「なんだ?」
「その、ですね。この…体勢は、その」
「…恥ずかしいのか?」
「だって、こんな、」

少し掠れた低い声、麻薬のような響き。
リュウガの部屋のベッドの上で、はリュウガに膝の上に座らせられて後ろから抱きしめられている。
恥ずかしがるの様子を伺いながら喉の奥でくっと笑って、リュウガが彼女の耳の下に指を這わせると、抱きしめた体がびくりと震えた。

「ひゃうっ」
「…敏感だな」
「ちが、これはっ、」
「これは、なんだ?」

そういって今度は髪を退けて首筋に口付けると、は今度こそ甘い声を上げた。

「ん!」
「…いい反応だ」
「うー…」

抱きしめた娘は耳まで赤くなっている。
初心な反応が愛らしくて、リュウガは喉の奥で笑った。
後ろから顎を捉え振り向かせて唇を奪うと、の唇からくぐもった甘い声が漏れる。
唇を開放してやると、はぼうっとリュウガを見つめ、急に目を逸らして下を向いた。


「…?どうした、

俯いて黙ってしまった恋人を引き寄せて顔を覗き込むと、は涙目になってリュウガをしばらく見つめ、口を開いた。

「…ずるいです、」
「?」
「リュウガさんのバカ。余裕って顔、して。…私ばっかりドキドキしてるみたいで、やです」
「…それはどうかな」

どうにも可愛らしい文句に、リュウガは微笑んで、と向き合う形に座らせ、腕の中にきつく抱き込んだ。

「あ」
「…聞こえるか?」
「え、」
「顔に出ないのが不満なら、直接聞いてみろ。…見た目より、余裕でもない」

押し当てられた胸に、は耳を澄ました。
脈打つ鼓動が伝わってくる。
ほんの少し早くて、ほんの少し、大きい音。

「…どきどき、してるの、聞こえる」
「俺も所詮はただの男だからな」

自分を抱く男が小さく笑ったのを感じて、もつられて顔を綻ばせ、ゆっくりと男の背に腕を回して目を閉じた。
同時に髪を慈しむように撫でる男の手のぬくもりに、は幸せそうに微笑んだ。
初めて頭を撫でてもらったときの、あの温かさと同じ。

「あの、リュウガさん」
「何だ?」
「目、瞑ってください」
「…?悪戯か?」
「いいから、ほら」

柔らかく笑ってそう促すに従って、リュウガは目を閉じた。
数秒の後に唇に触れたほんの一瞬の柔らかい感触に、目を開けるとは少しはにかんでリュウガから身体を離した。

「れ、れんしゅーです、れんしゅー!私からもちゃんとちゅーできるようにって、」

ね、と上目遣いで見上げる恋人に、リュウガは小さく笑って、素早くその身体を引き寄せて口付けた。
角度を変えて何度も唇を貪ると、は参った、とでも言うようにリュウガの背を軽く叩いた。

「…だめだ」
「んんー!」

一瞬だけ唇を離してからまだ足りないとキスを繰り返し、ようやく唇を離すと、は赤い顔でもごもごと文句を言った。

「な、なんでそんなにっ、慣れてるんですか、」
「何がだ」
「ちゅ、ちゅー」
「…別に慣れているつもりは無いんだが」
「うううう、うそ!あああああんな、ううううぅー!」
「嘘をついてどうする…本当だ。慣れるほど回数もこなしておらん」
「じゃ、じゃあなんでそんな、う、上手いんですか」
「ほう、俺は上手いのか?」
「は…!?」

天然だ、天然スケコマシがいる!
口をパクパクさせたの脳裏に、そんな文字が大きく出た。

「何だ、上手いと気に入らんのか?」
「そういうわけじゃ、ない…ですけど。他の人ともいっぱい、ちゅー、してたのかなって、…その」

がぼそぼそと答えると、リュウガは子供をあやすようにを抱いて頭を撫で、囁いた。

「…お前の他にこれほど愛した女はいない。安心しろ」
「ん…」

子猫のように心地良さそうな表情で男の胸に額を摺り寄せて、は小さく呟いた。

「……Mon coeur sera toujours pour toi.」
「……なんだ?」
「フランス語。ね、わかりますか?」
「いや…俺は語学は得意ではないからな…」
「じゃあ、えっと、簡単な英語は?」
「それなら少しわかるが…」
「んと、それじゃ言い直します。あのね、今のは…」

内緒話をするようにリュウガの耳元に顔を寄せると、は綺麗な発音で囁いた。


"My heart is yours."


わたしのこころはあなたのもの。