週末、私は大学時代の女の先輩と喫茶店で話しながら不思議な出来事があったんですと話した。当然猫耳イケメンの話だ。あんなもん初めて見 た、 と話すと、先輩は何が面白かったのか爆笑した。 「本当に猫耳つけたイケメンがいたんですって」 「ええ〜なにそれ ちゃんのヒモ?」 「違いますって!てか一応彼氏いるし!」 「え、まだ続いてたの」 「続いてますよー」 「……マジ?うそ、どうしよ、私良くないもの見たのかな」 「え?」 カフェラテを飲みながら語った先輩曰く、私の彼氏がつい昨日見知らぬ女の子と楽しそうにラブホから出てくるところを目撃したとのこと。寝 耳に 水の状態で家に帰り、浮気が発覚したことを理解した。あの野郎舐めやがって。 ちょっと話がしたいと呼び出して都合がついたのが火曜の夜。近所の中華屋で夕飯を食べた後に問い詰めたところ、返ってきた台詞がこれだ。 「 はさー、オレいなくても生きていけそうじゃん?でもさ、ミユキちゃんにはオレしかいないんだよね」 よろしい、ならば戦争だ。 そんなわけで、目の前に残った水と味噌ラーメンのスープを顔面にお見舞いし、浮気男がアチーアチーとのたうち回るのを尻目に、釣りは要ら んと 吐き捨ててテーブルに手切れ金(5000円札)を叩きつけ、遠吠えを繰り返す男を置いて中華屋を後にした。そしてその足で鬱憤を晴らすためだ けにファストフード店に突撃し、バーガーのセットを4つにナゲットにシェイクにと、再び爆買いをやらかした。 浮気なんぞふざけたことをする男はこの際どうでもいいとして、両手いっぱいにぶら下がったジャンクフードを改めて見て気づいた。 食べきれない。間違いなく。 「またやっちゃった……!!」 ポテトは冷凍すれば、レンジでチンしてソースとかで味付けしたら食べられるからいいとして、バーガーは良くないだろ。ナゲットもあんまり 日持ちはしないだろ。そんなわけで、再び途方に暮れた私は、一縷の望みをかけて猫耳イケメンに出会った路地裏に向かった。いたら彼に再び これらを 食べるのを手伝っていただきたいのだ。 記憶を頼りに猫耳の彼がいた路地裏に向かうと猫耳くんは路地裏でダンボールの上に膝を抱えて座っていた。 「お、いた!おーい」 声をかけると、彼は顔を上げてこちらを見て、目を数回ぱちぱちと瞬かせ、こちらを伺うようにしながら四つん這いになり、そろりと後ろに一 歩下 がった。何やら警戒している様子だ。 「あ、あ、逃げないでー……っと、覚えてる?先週の月曜におにぎり持ってきたんだけど」 バーガーの入った紙袋を突き出して中身を見せると、猫耳くんは動きを止めて袋をじっと見つめた。そして身を屈めながら、袋と私の顔を交互 に見 て静止した。実に猫らしい動きだ。耳と尻尾が本物のように思えてくる。静止したまま動かない銀髪の猫耳イケメンが逃げないように、こちらもし ばらく動きを止めると、彼は再び段ボールの上に戻って四つん這いの状態から腰だけ下ろし、土下座一歩手前のような状態で落ち着いた。う ん、 猫っぽい。これなら逃げないな。袋からそろりとバーガーを取り出すと彼の視線はバーガーに移った。 「良かったらさ、今日もこれ……食べるの協力してくれない?ちょっと買いすぎちゃって……ほら、まだ温かいよ」 猫耳イケメンくんが座る段ボールの上に手を伸ばし、そーっとチーズバーガーを置いてみる。彼はバーガーと私を再び交互に見ると、段ボール に置 かれたバーガーに顔を近づけてくんくんと匂いを確認し、私の様子を伺いつつバーガーに手を伸ばして包み紙を開き、バーガーに齧り付いた。 おにぎりと同じように、両手できちんとバーガーを持って食べている。特に美味しそうに食べているわけじゃないけど、イケメンが食べている とこ ろって妙に可愛い。食べ終わる頃を見計らってナゲットも取り出して彼の前に置くと、それも匂いを確認してから1個ずつ食べ始めた。が、こちら はケチャップなどは付けずにそのまま食べている。 「そうだ。喉乾くよね、これも飲みな」 ウーロン茶の入ったカップを取り出してそれも差し出すと、猫耳くんはストローを見て首を傾げた。おいおいマジかよストロー嫌なの?と思い つつ カップの蓋とストローを取り外してもう一度段ボールの上に置くと、猫耳くんは今度はちゃんと両手で持って中身を飲んだ。この子何でも基本は両 手で持つんだな。ナゲットは流石に片手だったけど。 続いて照り焼きチキンバーガーを取り出すと、これも両手で持ってきちんと正座して食べきってくれた。無表情の猫耳イケメンのお腹に私が買 いす ぎたバーガーとナゲットが消えていく。なんか和むな〜と思っていたら、あっという間に買いすぎたファストフードたちは食べきれる量にまで減っ た。これ以上あげると自分の分が無くなる。 「……お腹一杯になった?」 私の質問に彼は答えることなく、綺麗な紫の両目を眠そうにぱちぱちさせて、まるっきり猫にように両手を地面につき背筋をぐっと伸ばした。 そし てこちらには興味がなくなったのか、再び先週のように路地裏の暗がりに消えていった。 銀色の尻尾がゆらゆら揺れてやがて見えなくなるのを見届けて私も立ち上がる。ろくでもない浮気男の事なんてどうでもいい気分になって心な しか 気持ちがすっきりした。 さあ明日も仕事だ、頑張ろうっと。 |