(夢主視点)

昨日の夕方、ダイ達の様子を確認してきたガルーダが戻ってきてクロコダインに偵察内容を報告をした。
ちなみに
白い大鳥は普段はクロコダインの魔法の筒なるアイテムに入っているらしい。な るほど、用が無い時はどうしているのかと気になってたけどそんなトコにいたのか。持ち 物は入れられないのか聞いてみたけどそれはダメらしい。荷物が軽くなると思ったのに、 とぼやいた私に、クロコダインが苦笑した。

ガルーダ曰く、ダイ達は一旦バルジ島を引き上げて対岸の洞窟で準備を整え、明日の朝―――つまり今日バ ルジ島に再び向かうとのこと。バルジ島にはフレイザード(やっと名前覚えた)がいて、 彼らを迎え撃つ用意をしているんだとか。ちなみにこれらの情報は「クワァッ!!クワ、 クワァッ!」に集約されていた。1つの「クワァッ!」に情報詰め込みすぎじゃない?別 にいいんだけど。

「敵ってどれくらいいるの?」
「少なくとも氷炎魔団は待ち構えているだろう。それだけで済むとも思えんがな」
「……どういうこと?」

説明を求めると、ヒュンケルがクロコダインの代わりに理由を口にした。

「魔王軍はダイの討伐に既に2度失敗している。大魔王バーンはいつまでも敗北を許す男ではないから な……ここで一気に畳み掛けてくる可能性もあるだろう」
「へ、へえ……」

うわあイヤな事聞いちゃった。そういうのやめて欲しいんだけど。私そこまで強くもないから、あんまり強 い敵が出てくるとなると怖いんだよ。ロンさんに鍛えてもらったとはいえ、多数の敵に対 応できるほどじゃないし。引き攣った笑いしか出なかった私に、クロコダインが言った。

「案ずることはない。お前が戦わずに済むようにオレ達が行くのだ……お前は自分の事だけ考えて、落ち着 いて行動すればいいさ」
「クロコダイン……!」

ちょっと聞きました?この男前な台詞!漢だよ。問答無用で惚れるわ。何でこの世界には録音できる道具が 無いんだろう。今ほど録音したい瞬間は無い。ほんと、なんでこの人……じゃない、リ ザードマンは、人間に生まれなかったんだろ!



ヒュンケルは白い塔、クロコダインは赤い塔に向かってそれぞれ援護に行き、私は戦闘地域から離れるためにあえて上空に高く飛んで島を 見下ろしていた。各塔の付近で砂埃が舞い上がっているので、あの周辺が戦闘地域。そしてその中心が、おそらく本陣だろう。大きな塔が ある。

ダイ達は無事だろうか。元敵のクロコダインとヒュンケルが仲間になった(?)のは心強いけど、やっぱり年下に任せて傍観って良くな いよね。確かに私はお遣い途中の旅人なんだから助けに入る義務は無い。でもこのまま戦闘終了まで待ってるのはどうなのか……うん、ダ メだな、行こう。

白い塔はヒュンケルが早々にぶっ壊したみたいだから、行くなら赤い塔か。高度を落として赤い塔に向かおうと方向を変えた時、白い塔 があった方向から衝撃波みたいな音と眩しい光が放たれた。

「なに今の……!?」

爆発でもしたのか?敵が?あっちはヒュンケルが行った方角だ。塔を壊してすぐ本陣に向かっていたんじゃないのか。戦闘が続いていた なら、今のは敵の攻撃?だとしたら、あいつまた怪我してるんじゃないの。そうだよ、敵が大勢待ち構えて一気に攻撃し掛けてくるかもっ てあいつが言ってたんだ。その読みが当たっていたんだとしたら。

「……あーもう!」

なんかほっとけないよね、あのネガティブイケメンは!方向転換して白い塔があった場所に向かう。今のブーツの飛行速度は体感で大体 時速70キロくらいだろうか。急いで駆けつけると、ヒュンケルが一人で座り込んでいる。周囲には何か強い衝撃で吹き飛ばされたような 痕跡と青い液体の痕がある。戦闘は終わったんだろうか。敵の姿は無い。座ったまま全く動こうとしないヒュンケルに近づいてみる。

「ね……ねえ、ちょっと。生きてる……?」

そーっと肩を叩いて声をかけるも返事が無い。おそるおそる口元に手を当ててみると、息はある。どうやら気を失っているようだ。よく 見ると鎧の胸部に何かが刺さったような丸い穴が4つ開いている。うっそマジ?ロンさんの鎧って結構な硬度なんだけど。私の骨組みみた いな装備ですら、ちょっとやそっとじゃ傷一つつかない防御力なんだけど。一体どんな化け物が相手だったんだろう。

とにかくまずは傷の手当てだ。いつまでもこんな所で気を失ってたら敵に見つかるかもしれない。露出している首元に手を当てて回復呪 文をかけて暫くすると、ヒュンケルの頬に少し赤みが差した。よし、ちゃんと効いてる……って思ったら。

「ぎゃん!?」

手を掴まれて背中を押さえられ、地面に押し付けられた。イタイイタイ肩変な方向に曲がっちゃう!!

「ちょちょちょちょっと待ってギブギブギブ痛いってばーー!!」
「……!? ……?」
「痛いーはなしてー!」
「っ、すまん!」

ヒュンケルはどうやら私を確認する前に咄嗟に動いてしまったみたいだ。が、こっちは肩捻り上げられて地面におっぱい打ち付けて痛い んですけど。理不尽なんですけど!

「いきなり何すんの!?回復してたのにっ!」
「つい……敵かと……」
「もう!心配して損した!」

敵って。このどう見ても無害な私のどこが敵か失礼なネガティブイケメンだな。しかもお目覚め直後なのに機敏に動けるようだし、こん なんならほっとけば良かった。
私が明らかに機嫌を損ねたのを見て、ヒュンケルも流石に申し訳ないと感じたらしい。

「……悪かった。どこか痛めなかったか……?」

飼い主に怒られてしょんぼりしてる犬みたいな目で謝ってきた。なんだ、可愛いとこあるじゃん。素直に反省しているらしいし許してや るか。私は心の広い女だからな。感謝しなさい。

「いいよ……大丈夫。でももう間違えないでよ」
「……本当にすまない。お前には迷惑をかけてばかりだな……」

苦笑して謝罪を受け入れたら彼はもう一度、重ねて詫びの言葉を告げてきた。ちょっと苛めすぎたかな。でもこっちも痛い思いしたし、 これでイーブンだよね。実はまだおっぱいと肩がちょっと痛いけど後で回復呪文で治療しよう。

「もういいからさ。先へ進もう。みんなが心配だし」

肩を叩いて促すとヒュンケルは頷いて立ち上がった。さあ、ここからが本番だ。



草の匂いが鼻をつく。この島には匂いの強い草が沢山生えているらしい。
ダイ達に合流しようと思ったら、ヒュンケルが回復役は隠れていろと言うのでおとなしく従ったわけだが、先ほどから聞こえてくる話を総 合するに、どうやらダイの大切なお姫様は塔の上で氷漬けになっているようだ。ナニソレ怖い。でも氷だったら熱で溶かせるんじゃないの か。なら、こっそり裏から回って塔の上に行き、お姫様を救出しちゃったらいいんじゃないの?

というわけで私はヒュンケルの指示をあっさり無視して、フレイなんたら(また名前忘れた)が動きを止めたのを見計らって森の中から 裏に回りこんだ。だってもうボスってあいつだけなんだし?人質の救出最優先だよね!岩っぽい魔物が自爆技を使うってことはさっき見て いてわかっているので、呪文を使われる前にヒャダインで全部凍らせて動きを封じ、塔の上まで一気に上昇。見張りはいない。塔の天辺に は大きな氷柱があった。これか、氷漬けで人質になってるお姫様って。確かレオナ姫だったっけ。

小声でメラゾーマを唱えて氷にぶつける。あれ、全然解けないなこれ。もしかして呪文じゃ解けないとかそういう氷?砕くわけにも行か ないし、ちょっと弱火で炙ってみようかな……と氷を溶かす作業を試行錯誤していたら。

「テメェ!!どこから入り込みやがったァッ!!」
「!?」

空に浮かぶ石の塊が話しかけてきた。えっ何こいつ!?

「やっば……!」

慌ててブーツで飛び上がって退避するも、石ころは後ろを追いかけてくる。なんだこいつ!?
こんな魔物いるの!?聞いてないんだけど!

「ちょちょちょクールダウン落ち着いて、そんな怒んなくていいでしょっ!?」
「うるせえぶっ殺してやる!!」
「あーんもう失敗したーー!」

ちなみに双方共、びゅんびゅん飛び回りながらの会話だ。フレイ何たら(もう名前どうでもいいや)はまだ倒せないのか、早くこいつ何 とかしてよ!と思ったらさっき見かけたフレイ何たらの姿は無く、みんなが地面に伏せていた。えっこれ何どういう事?もしかしてこの石 ころがフレイ何たらなの!?

さん!?どうしてここに!」
「ごめん今説明できない後にしてぇぇっ!!」
「待ちやがれェェッ!!」
「ぎゃあああああ!!?」
「やめろっ!フレイザード!!」

そうだーこいつの名前フレイザードだー!でもそんなのどうでもいい!早くどうにかしてもらわないと私の魔法力が切れちゃう!今の内 に皆回復とかして助けて頂きたい。大人組は何してんだー!

「ちょっ、ホント女の子を追い回すなんて男として情けなくない?恥ずかしいじゃんやめようよそういうの、」
「黙れトンボ女!!テメエが大人しくしてりゃあ一瞬で済む話なんだよ!!」
「無理ーーー!!」

誰がトンボ女だよ!あんたが追い掛け回すのをやめれば私だって止まるわ!なんて言ってる余裕もそろそろ無くなって、とにかく怪我し たくないのでひたすら飛び回っていると、ヒュンケルが体を起こして叫んだ。

!こちらに飛べ!」
「ぶつかっちゃうって!」
「構わん!来いッ!!」
「……ッ行くよ!!」

ヒュンケルの指示通り、彼に向かって一気に突っ込む。頭から突っ込んだ私をヒュンケルが受け止め、迫ってきた石礫を鎧に覆われた背 中で防いでくれた。私はといえば、数ヶ月前のスライディング着地よろしく地面にへばってはいたものの大きな怪我は無い。彼が庇ってく れたおかげだ。指示を無視して失敗したのは私なのに助けてくれるなんて、こいついいやつだ!

「無事か!?」
「イエス……!」
「……頭を下げていろ」

こちらの無事を確認した彼は、地面に這い蹲っている私を腕で庇いながら、同じく動けないダイに声をかけた。そして剣を握って、手に 滲んだ血でダイの視界を塞いだ。一体何をやってるんだろう、ダイの目を潰すなんて。皆の目が集中する中、ヒュンケルはダイの“空”の 技が成功しないのは視力に頼っているからだと説明した。

フレイザードを倒すには、“空”の技……空裂斬という技を成功させなければいけないらしい。空を切る技と言われても一般人の私には 想像しにくいので首を傾げると、ヒュンケルが補足説明もしてくれた。お、さすが実力者、剣士らしいこと言うじゃないの。

「実体の無いものを斬る……ってこと?」

私が要約した内容で間違っていないらしい、彼が頷き、剣を構えるダイをサポートする。視界を奪われたダイは、迫り来るフレイザード を避けもせず、じっと何かを探るように意識を集中している。
目前に迫ったフレイザードと、迎え撃つダイ。小さな体が剣を振るった時、フレイザードの核が二つに割れて砕けた。

「ウギャアアアアア!!」

フレイザードが断末魔の叫び声をあげて炎と氷の半身が分かれた。
すかさずポップが氷の半身を呪文で始末し、残った炎の半身も始末しようとヒュンケルが斬りかかった時、お化けみたいなやつが突然姿を 現した。

「ミストバーン……!」

また敵!?もうついていけないよ?おっぱいだの肩だの痛いし(主にヒュンケルの所為だけど)スライディング着地でオシリ打ったし (主に自分の所為だけど)……あれ、そういや敵にやられた傷は無いな……。でも回復以外で動ける気はしない。というか、こいつ見るか らに強そうだ。既に一度足を引っ張っているので、大人しくしておこう。

けれど状況は良くなるばかりか、むしろ悪化したと言える。厄介なことにミストバーンとやらは残ったフレイザードの半身に巨大な鎧を 与え、鎧の体を手に入れたフレイザードはパワーアップしてしまったみたいだ。まずい、もう皆ボロボロなのに、こんな所で復活されたら 困る。しかもこの鎧、なんとヒュンケルの鎧の魔剣と同じ材質らしい。つまり私のブーツも同じ……嫌なお揃いだ!それに材質が同じって ことは魔法が効かないって事じゃないか。

鎧に殴られそうになったポップを庇ってヒュンケルが前に出るも、彼の鎧をも砕く威力で攻撃され、二人が地に付した。主力とも言える二 人が倒されて、血の気が引いた。これはまずい。

しかし、ダイは違った。鎧で武装したフレイザードに怯まず、再び剣を構えて放ったのだ。

「アバンストラッシュだ〜〜〜〜っ!!」

フレイザードがINしている鎧が砕けて、恨み節を言うフレイザードの残り火を足で踏み潰し、ミストバーンは消えた。どうやら今度こ そ戦いが終わったようだ。

「さあ、急ぎましょう!早く塔の姫を……!!」

マァムがダイを抱えて塔に走り、ポップもそれに続いていく。いつまでもへばっていられないので、私もヒュンケルとクロコダインの後 ろに続いて塔に登った。

レオナ姫の氷はなかなか解けず、一時は救出と思われたが、ダイがマァムの魔弾銃にべギラマを2発詰め込んで放つと解けた。魔弾銃が 砕けたのと引き換えに、レオナ姫の体をダイの腕が抱きとめる。

かくして、レオナ姫救出作戦は成功。バルジ島での戦いは幕を下ろしたのであった。