(夢主視点)

新しい靴を買ってお店を出たら、ドラゴンがいました。

「えええ……なにこの遭遇率……」

せっかくいい気分で買い物を終えて帰ろうとしていたのになんだってんだ。ドラゴンは火は吐くわ建物は壊すわでやりたい放題暴れま わっている。
またも魔王軍の襲撃に遭遇した私は、仕方なく市民の安全に貢献するためブーツを駆使して逃げ惑う住民を先導し避難させる方に回った。 既に大勢の怪我人が出ている。

「落ち着いて!空から先導するから、私の後に続いてくださーい!!」

ドラゴンが向かって来ない道を探しながら、人々を誘導して避難させる。高台の離れた場所まで逃げるように指示すると、負傷者の救助 に取りかかる。瓦礫や炎に巻かれて動けなくなっている人たちが大勢残っている。

「誰かこっちの人運ぶの手伝って!怪我人がいるの!」

逃げる人達に声をかけながら、ドラゴンが去った場所から優先的に負傷者に応急処置のベホイミをかけて避難を任せる。何人か避難を促 した所で、百貨店の前で立ち止まっているドラゴンを見つけた。何かを首で締め付けている。人のように見える。それも子供。

「!あれって……うそ、ダイなの!?」

よく見ればレオナ姫もいるらしい。早く助けに行きたいけれど、こっちも怪我人の避難で手一杯だ。このままではダイが絞め殺されてし まう。そこにポップの焦った声が聞こえて、更に2匹のドラゴンが唸りをあげてやってくる。

絶体絶命の文字が頭に浮かんだ時、ダイがドラゴンの拘束を物理的に……要するにドラゴンの首を引きちぎって解いた。

マジかどんな力してるんだあの子。見事ドラゴンから逃れた彼は、その後ドラゴンを全部倒して、町の破壊は止まった。敵を撃退したこ とでこちらの気持ちの焦りもなくなって、怪我人を避難させることができた。ポップがダイの元に駆け寄って声をかけているのが見えた。 問題はその後だ。


「こわあいっ!お兄ちゃんこわいよおっ!」

ダイに助けられた少女が残酷な言葉を口にする。
幼く無関係な子供だからこそ口にした最悪の賞賛だった。

いけない、この空気は良くない。

「な……なんでみんな、おれのことをそんな目で見るんだよ…!」
「キミが人間じゃな「なにやってんのあんた達!!!」

一瞬なんか変な声がした気がするけど知らん!この場は一旦別の話題に持って行こう。

「こっちにはまだ怪我人が大勢いるんだよ!?ヒマなら手足を動かしなさいよ!!」
「な、なんだよあんた!」
さん、何でここに……!」
「細かい事気にしてる場合じゃないでしょ!今は人命救助が先、無傷や軽症の人は3人に分かれて班を作って!東の地区の被害が酷いか ら、あんた、そこの青い服の人から左側は東の地区に向かって!!」
「えっ……あ、え?」
「ぼーっとしてんな動け走れ働けぇぇーー!!!」
「は、はいいいっ!!」

ほぼほぼ勢いで話の流れをぶった切ってその場の人間を怒鳴りつけて散らしたら、ダイが何かの気配に気づいて手にしていた武器を壁に 向かって突き刺した。

「ウフフフフッ……!」
「ま……魔王軍かっ……!?」

壁から姿を現したのは気持ちの悪い仮面をつけた道化のような人物だった。登場の仕方といい笑い方といい、気持ち悪いの一言に尽き る。なんか微かにウィーンって鳴ってる気もするし……ロボットか何かだろうか。ターミネーター的な?

「……ボクの名前はキルバーン。クチの悪い友達は死神なんて呼ぶけどね…」
「死神…キルバーン…!」

キルバーン?Killバーン…バーン殺ってか?随分反逆的で物騒な名前だ。大魔王バーンとやらも良くこんなアウト・オブ・コント ロールな名前のやつを部下にしたもんだわ。裏切る気満々ってカンジじゃないか。どういう神経してるんだ。

「お前が超竜軍団の軍団長か!!?」
「軍団長…?ウフフッ、ボクはそんなに偉かないよ…ただの使い魔さ」

キルバーンとやらはダイの問いに気味の悪い笑みで返すと目だけでにたりと笑った。

「さっきはそこのお嬢さんに邪魔されたけど、実は魔王軍でもキミの正体が話題になっていてねェ。超竜軍団から竜を借りてボクがキミ の正体を見極めることになったのさ。おかげでキミの本当の姿を見ることが出来たよ、フフッ…」

キルバーンはそう言って、ダイが放った武器を無造作に投げ捨てて壁に再び消えようとした。

「ま…待てっ!おれの…おれの本当の姿ってなんだ…!?」

ダイの問いに、キルバーンは「近い将来本物の超竜軍団長が現れる」と言い残し、壁に消えた。残された武器はドロドロに溶けている。 正体不明の不気味な敵の出現に皆が戸惑う中、レオナがその場にいた老女にダイのことを尋ねた。

老女によればダイは竜の騎士と呼ばれる伝説の存在だという。衝撃を受けた表情のダイは呆然としている。驚くポップとレオナ姫に、彼 にしっかりついていてあげるように耳打ちして、私は街の救助作業に向かった。後になって思い返せば、あの時傍にいてあげなかった事が 悔やまれる。



(ヒュンケル視点)


カールでバランに殺害された男の胸に空いた紋章の傷跡を目にして、オレはすぐに来た道を引き返した。ダイと同じ竜の顔に似た紋章。間 違いなくバランはダイと同族か同じ力を有している。

クロコダインの部下のガルーダが持ってきた手紙にはダイ達がテランに居るとの情報があった。クロコダインは既に到着しているのだろ う。大鳥は主の元に連れて行ってやるというように一鳴きしたので、遠慮なく白く広い背に乗った。急を要する事態のため早いに越したこ とはない。

バランがダイと関係しているとすれば次に動くのはバランで間違いない。ダイ達がテランにいるのなら必ずそこに向かうはず。大鳥が翼 をはためかせて空高く上昇する。この速度ならテランまで半日もあれば着くだろう。仲間の安否が気になる。

テラン。確か の住む村は、テランとベンガーナの国境付近ではなかっただろうか。超竜軍団の攻撃を受けていないことを願うばかりだが、今はとにかくダイ達を優先せねば ならない。無事を確認するのはその後でいい。

尤も、オレに命が残っていればの話だが。

バランと戦えばオレ達とて無事では済むまい。あの男は魔王軍の中でもフレイザードやザボエラとはワケが違う、桁違いの強さを持って いるのだ。その根源がダイの力と同じだとすれば、戦闘経験から考えてダイ以上の秘めた力を有しているはず。死ぬ覚悟で挑まなければな らないだろう。

やつに勝利できなければ誰にも魔王軍を止めることができなくなる。すなわち地上は終ったも同然、いずれ彼女の身にも危険が及ぶこと になるだろう。決してそんな事態にはさせない。


目を閉じれば蘇る穏やかな優しい声。

『あんたは愛されてた。生きてていいの』

オレを罪ごと受け止めてなお、温かく笑いかけてくれた。

『バルトスさんが拾って繋げてくれた命、大事にしなよ』


彼女の柔らかい笑顔が奪われるようなことは許さない。
たとえこの想いが罪深いオレには過ぎたものであろうと遠くからでいい、守りたいのだ。
仲間や彼女のためにも、なんとしてでもバランを止めねばならない。



(夢主視点)


ダイ達と別れて人命救助に当たっていた私は、元の世界での知識ゆえか要領よく指示を出していたら勝手に復興対策チームの現場リーダー に決定されていた。

瓦礫の撤去をとにかく急いで、ライフラインを確保する。
医者を集めて怪我人にトリアージを行い、重症の人から医者に引き渡して、危ない人達には回復呪文で応急処置。
暴動の予防対策に可能な限りの物資を配給し人々の不安を抑える。

基本的にはこの3つが頭に浮かんだ優先的事項だったので、その辺をメインにやっていたら、あの子よく動くし魔法使えるしすごいん じゃね?と思われて、知らないうちに現場指示のリーダーになっていた。何でみんな私に聞いてくるんだと思ったらリーダーでしょ?と言 われて気付いた具合だ。なんだそりゃ。

「ロンさん、私しばらくベンガーナに拘束されそうです……」

夕暮れまでガンガン動き回って後始末を頑張ってフラフラになって夜に帰ってきた私に、ロンさんはしれっと口にした。

「飯は作れよ」
「鬼ですかアンタ!?」

ここ2日くらいで魔法力とスタミナ回復の薬を何本飲んだことやら。ダンスの練習もほとんど出来ていない。食事も何度か抜いたから痩 せた気もする。新メニュー考えてスランプってる時の父親がオロ●ミンCがぶ飲みしてた気持ちがわかる。肌と髪のケアはかろうじてやっ ているけど、肌荒れもしてきている。動いているから贅肉がついていないのが救いか。

とはいえ、やってらんない、なんて言ってもいられない。人命救助と安全性の確保を優先しなければいけないのだし、動ける人間がやる べきことなんだし。


そんなこんなでベンガーナの町の復旧作業に当たっていた私は、上空から怪物の唸り声が聞こえてドン引きした。

「!うそ、またなの!?」

一匹の飛竜がベンガーナの居住区上空に姿を現して、火を吐き始めたのだ。まずい、あの場所には怪我人が収容されている教会がある。 止めないと更に被害が拡大する。

戦うしかない。
ブーツは十分使いこなせている。勝算は低いが、私以外にここで対処できる人間はいない。
ロンさんに鍛えられた足技と、使えるようになってきた魔法と、ブーツの能力があれば、せめて皆を避難させる時間は稼げるかもしれな い。四の五の言ってたらやられっぱなしだ。

様!!」
「わかってる…!私が食い止めるから皆を避難させて!!」

指示を仰ぎに飛んできた人に住民の避難を優先させて、上空高く飛びあがる。容赦なく火を噴く飛竜に近づくと、飛竜には誰かが乗ってい ることに気付いた。鳥頭の魔物、というより鳥人間だろうか。逃げ惑う人々を愉快そうに嘲笑っている。


頭にくるな、こいつ。


一つ、ロンさんと開発中の技を試してやろうと思い、より高く飛翔してブーツに魔法力を込めた。
オレンジの魔法石が光る。ブーツの真空呪文をコントロールして酸素を超圧縮、そこに火炎系の呪文で火種を与えると発火時のエネルギー によって膨張した空気は一気に放出される。
通常のスピードが70キロ程度しか出ない所を、この方法では200キロくらい加速できる。
垂直落下では更に重力による加速でスピードは増加し、全ての威力を集中させた蹴り技――

「っらァッッッ!!!!」
「ガ……!!」

ドラゴンの胴体めがけて超急降下、両足にスピードと重力を乗せた渾身の一撃を、文字通り叩きつける。

威力の程をロンさんの鉱石で試したら、メタル鉱石までは余裕でカチ割れた。(後でめっちゃ怒られたけど)
これを喰らって立っていられる敵はメタル鉱石以上の硬度を持っているってことになる。しかし相手も流石はドラゴン、胴に蹴りが直撃し たのに苦しげに胃液を吐いただけで、再び恐ろしげに唸り、怒りを顕にした。

「ルードになんてことしやがる…お姉ちゃんよ」
「ちっ………!」

鱗が厄介だ、鱗の無い腹にやれば良かったか。あんまりダメージが無さそうな飛竜と鳥人間を見て距離をとる。鳥人間は羽ばたいて武器 を構えて斬りかかって来た。

「人間如きが調子に乗んじゃねぇッ!!」
「うっわっ!?」

鋭いレイピアが頭上を掠めた。下に飛んで逃げると、鳥人間は盛大に舌打ちして飛竜の腹を再び蹴った。

「チッ…まあいい!!女と遊んでる時間もねえからな…!」
「!」

鳥人間はそう言い残すと飛竜を操り、方向転換して彼方に飛び去っていく。

「……行った……?」

戦意喪失したわけではないだろうし、どうも不自然な退却だ。しかし兎にも角にも被害は最小限で抑えられた。無理に後追いせずに、一 度こちらの体勢を整えるのが優先だ。鳥人間の他にどれだけの脅威が残っているかもわからない以上、備えも無しに無用な戦いは避けた方 がいい。けれどまるでタイムリミットがあるかのような、あの物言いはなんだろう。引っかかる。落ち着いたら様子を見に行こう。