(夢主視点)

ベンガーナの復興は想像よりスムーズに進んでおり、私の仕事はほとんどなくなっていた。かといって放置なんてしていないけど、少なく とも3日に1回顔を出しに行って様子を見るだけで十分な状態だ。

ダイ達と懇意ということもあって気付けば私は勇者の仲間と認定されており、パプニカ襲撃の際の後始末もベンガーナ王が大魔王討伐に集 中できるよう便宜を図ってくれたので最低限の仕事しか回ってこないようになった。(余談だがパプニカでいつの間にか私の二つ名が増え ているのを聞いた。今度は“紅き矢”だそうだ。もういい、好きにしていただきたい。)

そんなわけで手が空いたため、回復が終わったダイとヒュンケルを連れて剣と魔槍の修復をロンさんに頼んだところ、予想通りロンさん の機嫌の悪さが3割増しになった。

そりゃ挨拶もそこそこに開口一番に早速武器壊れましたなんて作った本人に言ったら怒るでしょ普通。ダイの剣なんて半年振りくらいに 気合入れて作ったんだからさ、あの飲んだくれ鍛冶屋がだよ?話の持って行き方ってものをだね…せめて酒瓶3,4個用意するとかさ…そ この銀髪不死身系男子、あんただよしっかりしなきゃいけないのは。手土産くらい持って来なきゃ駄目でしょうが。

まあ剣の腕は達人レベルでもコミュ力のレベルは一ケタ台の21歳だから仕方ないか。そうだよね、まだ人間社会に関わって2ヶ月くら いしか経ってないもんね。しゃーない私が代わりにやってあげるよ、ちゃんと見て覚えるんだよって言ったらヒュンケルが不思議そうに首 を傾げた。こいつめ、人生が全て顔だけでイージーになるわけじゃないってことを理解しなさい。何のために私が処世術を身に着けたと 思っているんだ。アホ犬っぽくて可愛かったから今回は許してあげるけど、私は専属ソーシャルワーカーじゃないんだからね。

結局眉間に皺を寄せてこれから数人殺してきますって顔になったロンさんを、私が予め用意しておいた上物のお酒を一本出して宥めた。 これがなかったらこの人の機嫌は一層悪くなっていたんだから、感謝ついでに肩でも揉んで頂きたいくらいだ。私という友人をしっかり大 事にしてもらいたい。

最終的には二人がロンさんのところで扱かれることになり、手持ち無沙汰になった私はロンさんの家の前の切り株に腰掛けて修行の様子 を観察している。

「あーあーいびり倒しちゃって……大丈夫?ダイ」
さん」

さっきまではダイとヒュンケル二人を相手していたけど、今はヒュンケルだけに的を絞ってやってるらしい。攻撃を防ぐだけで精一杯な ヒュンケルに、鬼のようなロンさんの攻撃が続く。あれめっちゃ怖いのだ。私よく泣かないもんだわ、慣れってすごいな。

「ロン・ベルクさんって剣の達人だったんだね。すごいや」
「そーだねー酒飲んでない時はね」
「聞こえてるぞコラァ!!」
「うわこっわ。すいませーんヒュンケルが代わりに謝ってくれるんでー」
「なっ !?」
「ほぉ?いい度胸じゃねえか」

ロンさんの更に気合が入ったシゴキをヒュンケルが紙一重で受けているのを見て、ダイが苦笑して私に尋ねた。

「いつもあんな感じ?」
「そ。よく生きてるでしょ私」
「あはは……」

ダイが苦笑いして頭をぽりぽりと掻いた。うん可愛いわ。かわいい。この子ほんとかわいい。
仕事で溜まり溜まった負のオーラが全部吹っ飛んだよ。癒されるなー。

「ところでダイ、ご飯なに食べたい?お肉?魚?」
「肉っ!肉食べたい! さんが作るの?」
「うん」
「楽しみだなっ! さんの料理、おれ好きだよ」

お姉さんはピュアに女を口説けちゃう君が好きだよ。大きくなったらヒュンケルとは違う方向でモテるよ。
あ、ダメかレオナががっちり掴んで放さないか。
でもこの子が笑顔でいると空気が明るいから気分いい。今日は腕によりをかけて美味しいものを作ってあげよう。

「じゃあ買出しに行ってくるから、それまでロンさんにきっちり鍛えてもらいなよー」
「うん、いってらっしゃい!」

それにしてもヒュンケルの体力ハンパなさ過ぎるなやっぱり!
30分休みなくロンさんの攻撃かわしてるってどんだけだタフすぎるわ。私?10分でへばります。





ロンさんの家の中は狭いので、テーブルを外に出しての夕食タイムだ。

「じゃーん!今日は豪華にしてみましたー!」

テーブルに並ぶ色とりどりの料理は全て私が頑張って作った。ロンさんもダイもヒュンケルも動いた分食べるだろうから、いっぱい作っ たら腕がちょっと疲れた。ま、明日は朝一でベンガーナに用事があるから、余れば朝食に出来るしいいや。

「おい、肉使いすぎじゃねえか?」
「ふふーん。私もベンガーナで稼いだんで収入あるんですー」
「ハッ」

席に着いたロンさんに酒を注ぎながらドヤ顔したら鼻で笑われた。超失礼なんですけど。誰か褒めてよ私の努力を。 ちゃん事務仕事に交渉に現場監督に王様のボディガード兼アクセサリーに戦闘に回復にめっちゃ頑張ったんだから。新しくスクルトまで覚えたのに。解せぬ。

さん、これ何?こんなの見たことないよ」
「うん?それはね、牛肉とチーズとパンのトマトソース焼きっていうの」
「へえ!じゃあこっちは?」
「それは生ハムとオレンジと薬草のサラダ。一緒に食べると薬草の風味が消えて美味しいよ」

料理を一つ一つ説明してあげると、ダイは嬉しそうにそれらを皿に沢山盛ってぱくついた。いい食べっぷりです。お姉さんキュンキュン しちゃう。

「すごくおいしいや!」
「ありがと。いっぱい食べな、まだあるから」
「やったっ!」

ダイがとっても美味しそうに食べてくれるので、見ていてこっちも嬉しくなる。いつもご飯作ってもノーコメントのどなたかとは大違い だ。

「はー癒されるー。感想言ってくれる人って大事だよね」
「あぁ?黙って食ってりゃ美味いって事でいいじゃねえか」
「ダイ、こんな大人になっちゃダメだよ。料理の感想はちゃんと言う。礼儀だからね」
「ちっ」

ロンさんはばつが悪そうな顔して「悪くねえ」とだけ言った。ほんとに素直じゃないよねこの人。まあ、なんだかんだロンさんのこうい うところは嫌いじゃないけど。自分の分が無くなる前に食べる分だけ確保していたら、ヒュンケルが食事の手を止めてじっと肉料理を見て いた。おや、何か嫌いなものでも入れちゃっただろうか。

「どうしたの」
「いや……お前の将来の夫が羨ましいと思ってな。本当に美味しい。毎日食べても飽きない、優しい味がする」
「「…………………」」

なんだろう、このイケメンの悩殺コメント。恋愛ゲームでこういう台詞を言われるものがある気がする。よくわかってないダイはともか く、ロンさんもヒュンケルの無駄撃ちしたイケメンコメントに思うところがあったのか、食事の手を止めて固まった。

「……お前な………いや…………」
「ダイ、これもダメだよ。女の子に誰彼構わずこういう事言うと、後ろから刺されるからね」
「??」

状況を理解していないダイは頭の上に沢山クエスチョンマークを浮かべて私とヒュンケルさんの顔を交互に見る。

「…思ったことを口にしただけだ」
「いや、うん…嬉しいけど……」

普通に、美味しい、だけでいいです。この天然イケメン、自分の声とツラの破壊力を全く理解していない。
そりゃあ生い立ちのせいで美醜の感覚が普通の人間とは違うのかもしれないけど、誰か教えてあげないと今に女関係で痛い目見るな。



(ポップ視点)

決戦に向けて皆はそれぞれ特訓をしている。オレも必殺のメドローアをモノにするために腕を火傷したりしているけど、もう少しで掴めそ うだ。あの呪文を使いこなせれば、どんな敵が相手でも勝てる。
まあそんなわけだから、ちょっとマァムの足見に来るくらい許されるよな!ってわけで、オレはマァムが修行している滝で休憩していた。

「ダイとヒュンケルも頑張ってるものね……私たちも頑張らないと!」
「そういやあ、あいつらロン・ベルクの所で修行つけてもらってんだっけ」
「ええ、 さんから聞いてるわ。面倒見るのが3人になったって……」

いいよなあいつら。 さんみたいなお姉さまに面倒見て貰えるって。ヒュンケルのやつなんか さんとしょっちゅう…ん?あれ?

「……なあマァム。オレ前から思ってんだけど……」
「なに?」
「ヒュンケルのやつ さんに気があるんじゃねーの?」
「…………」
「…………だろ?」
「……じ……実は私も……あの二人って……」

だって気付くと一緒にいるし、つーかあいつ さんといる時の方がオレ達といる時より多くね?バルジ島でも さんをフレイザードから救出してたっけ。

さんといる時はヒュンケルの表情が嬉しそうだし、よく回復してもらってるし、そういやラーハルトにあの人が食ってかかった時もあいつすげえ焦ってたし。 あの人の言う事なら説教だろうがなんだろうが文句も言わずに大抵聞くし、そもそも さんにだけは対応がかなり甘い。オレを基準にしたら間違いなく激甘だと思う。マァム基準でも甘いくらいだ。

さんも結構あいつにはフランクだしオレ達よりも気安く接してる気がする。年が近いからってのもあるだろうけど。ただ さんからヒュンケルにくっついて行くってのはあまり無い。それに彼女のヒュンケルに対する扱いは結構適当だ。どっちかって言うと、ヒュンケルの方から 寄って行くよな。パプニカじゃ さんの部屋で夜中に二人で話し込んでたって噂もあったし。マァムと二人でいくつか思い当たる節を挙げてみると、出るわ出るわ。

「それじゃあやっぱり…!」
「ああ、間違いねえ…!」

ヒュンケルって さんのこと100%好きだろ!

「っじゃなくってっ!今は特訓よ、特訓しないと!」
「あ、ああ悪ィ!そだな、オレもう一回行って来るわ!」

鈍感なマァムまで感づいてるなら間違いねえ。ってことは、オレ達以上にそっち方面のカンが鋭そうな さんなら多分気付いてるはずだ。つーか隠してるだけで既にできてるかもしれねえし。と、考えるとだ。

もしかしてオレの片思いってあんまり心配することないんじゃねえの…?