(夢主視点)

大魔宮から中央部が落下してきて轟音と共に森の中に墜落・大炎上し、脱出したと思われる主戦力達が地上に戻ってきた。ポップ、ヒュンケル、アバンさん(初対面。生きてたらしい)、ラーハルト、ヒムはボロボロになっていて満身創痍といえる。他のメンバーは比較的ノーダメージだったので安心だ。特に女の子たちは顔に傷でもついてたらどうしようと思ったけど大丈夫だった。どういうわけかゴメちゃんはレオナの服の中で縮んでいた。なんでも、魔法力を吸い取る生物に食われかけた時にこうなったらしい。どういう事か全くわからないけど、この世界ではわからないことばっかりなので深く考えない事にした。

新しい鎧の魔剣はものの見事に破壊されていた。アンダーウェアも破れていた。いつも通りの、ぼっろぼろの状態でご帰還である。想定内だけど剣は残ってて欲しかったな。もう二度とあの格好いい鎧姿が見られないのが少し残念だ。もちろん中身が無事だから文句はない。

「すまん…鎧が……」

ヒュンケルは気まずそうに視線を逸らしている。新しい鎧がまた壊れたことを気にしているみたいだ。こういうところが律儀で可愛い。自分の身体の心配すればいいのに。

「バカ……あんたが無事ならそれでいいよ」
「……!」

ほっとしたように微笑んだヒュンケルの背を軽く押す。

「行っておいで」
「…?」
「エイミちゃん。先にあの子に言う事あるんじゃない?」

彼が戦いに再び向かう時、槍を渡して見送ったのはエイミちゃんだと聞いた。だからヒュンケルは途中参加の私ではなく、最初に彼女に礼を言うべきだと思う。戸惑うようにこちらを見た彼の背中をもう一度強く押す。

「いいから、ほら」

別にエイミちゃんに彼を譲るわけじゃなくて、通すべき筋を通すだけだ。ヒュンケルは何か言いたそうな顔をしたものの、大人しくエイミちゃんのところに向かった。エイミちゃんは涙ぐんでヒュンケルを見つめている。女の子の可愛げなら彼女の方が上か。こういう時は素直に泣くくらいの女の方がモテるんだろうな。私も可愛げのあるところは見せられるはずなのに、どうもあいつが相手だと素直になれない。男として見ているつもりでも、まだ保護対象的な視点が抜けないのか。

「いいのかよ姐さん」
「んー?」
「あいつ」

ヒムが彼とエイミちゃんの様子を見て尋ねてきた。ヒュンケルが意識を失った時の私の動揺振りと、ヒュンケルの私への態度から関係をそれとなく察したみたいだ。手持ち無沙汰なので身体が破損したままのヒムに回復呪文をかけながら答える。

「良いも悪いも、何も始まってないからね」
「始まってって…」
「まだ友達」

正直に答えたらヒムがぽかんと口を開けて固まった。気持ちはわかる。自分で言うのもなんだけど、今の彼と私は傍から見れば恋人と言っても過言ではないくらいの近い距離感だ。

「…マジ?」
「マジ」
「冗談だろ」
「ほんと」

繰り返し言って聞かせると、ヒムは大いに首を傾げた。

「……わかんねえ…」
「恋すればわかるんじゃない?」
「いやねえだろオレ」
「んーメタルスライムとか」
「ねえよ!」

ですよね。





ポップから聞いた事情によれば、ダイは死んだバランから受け継いだ竜の紋章の力を全部解放してバーンと戦っているという。ダイが戻ってきた時もしも姿が変わっていても、それは皆を守るためにしたことだから、何も言わないで受け止めて欲しい。ポップはそう呟いて、ダイがいる上空を見上げた。

どれくらい時間が経っただろうか。最後の黒の核晶が解除し終えたのが夕方、ダイ以外の皆が戻ってきたのが夜になってからで、それから数時間が経過している。空が白んできて夜が明け始めたとき、レオナが遥か上空に何かを見つけた。


「ダイ!」


無防備な状態で落下してきたダイを受け止めたのは、最後まで一緒に戦い抜いていたポップだった。

「オレ達のダイが勝ったんだぁーーーっ!!!」

笑いながら泣いて、ポップがダイの小さな身体をぶんぶん回した。小さな勇者が帰ってきた。皆にもみくちゃにされて喜びの瞬間を分かち合って照れながら笑っている。ゴメちゃんが嬉しそうにピイピイ鳴いてダイの周りをぐるぐる回っている。

さんっ!」

ダイが大勢の中から私の顔を見て、ぱっと顔を輝かせた。ダメだ、もう限界。

「う〜〜〜…」
「えっ、え、ええっ!?」
「ごめんねダイ、わたし全然力になれなくて任せっきりで…!」

色々ありすぎて感極まってダイの頭をなでくり回しながら泣いた。くせっ毛がちくちくしてちょっと痛いけど、こんな小さな子に何もかも背負わせてしまった事が苦しくて、帰ってきてくれたことで感情が爆発してしまった。身体を離してじっくり見ると、ところどころに色んな傷がある。

「こんなにいっぱい怪我して…ちゃんとレオナに治してもらうんだよ?」
「って自分がやるんじゃないのっ!?」
「私もう魔法力ほぼ空っぽでだめ」
「なんだそりゃ〜!」

あんまりくっついていても目立つし、私以上にダイにくっつきたい人が居るので、さっさとダイを明け渡すとレオナがダイの隣に座った。レオナはダイが帰ってくるまでずっと空に祈り続けていたのだ。

「ダイくん身体は大丈夫なの?どこか痛くない?」
「あんだけもみくちゃにしといて今さらそりゃないよレオナ…!」

解せぬという表情でぼやいたダイの言葉で周囲がどっと笑いに包まれる。良かった。ようやく戦いが全て終わったんだと感じる。談笑する皆を眺めていたら、不意にマァムが私を振り向いて言った。

「でもどうしてさんは黒の核晶を知ってたの?」
「そうだよな。見たことあるようには思えないんだけど…」
「んー?それは…」
「ボクが教えちゃったからだよねェ」

答えの代わりに聞こえてきた縁起の悪そうな声に、全員の表情が固まる。声の聞こえたほうを振り返ると、自分の首を抱えたキルバーンが立っていた。ホラー映画ばりの登場にぞっとする。

「バッ…バカなッ…!!」
「機械男…!!」
「まさか生き延びたとは思わなかったよ…踊り子のお嬢さん」

首だけのままの死神が喋る。
本気でホラーだこの男。

「みんな離れて!こいつは顔面に黒の核晶を仕込んだ機械人形なの!!」
「キミのそういうところが邪魔で始末したつもりだったんだけどねェ。しぶとい女だ」

死神が自分の首を戻して、自らの正体を語る。私はてっきり機械人形男は人工知能で喋っていると思っていたけど、どうも違ったようで、いつも肩に乗っていた使い魔が本体だった。使い魔は人形使いだったわけか。

「そう…ボクが本当のキルバーンだ…!!」

倒す方法は顔面を叩き割る事だが、それをやると黒の核晶が爆発する。やらないでよかったよ、と笑った一つ目の悪意ある声が癇に障る。

キルバーン曰く、本当の主はヴェルサー…チ?そんな感じの名前の敵らしい。よく聞こえなかったけど、とにかくその冥竜王とやらの指示でバーンの下についていて、隙あらばこの爆弾で大魔王を殺す予定だったという。バーンはダイが倒したからいいとして、それ以上の力を持つ人間を危険視したためにここでまとめて死んでくれと、そういうわけだ。

爆発まで、後10秒。
いい加減にしやがれ。

「マジャス…」
「させないよ」
「…!!」

取り出した黒い宝珠はキルバーンが放ったレーザーのようなもので破壊される。粉々に割れて散った宝珠を目にして、他の皆が弾かれたように動いた。

キルバーンの動きをアバンさんの羽が止め、マァムが拳を叩き込む。
カウントダウンの始まった人形を抱えて、ダイとポップが宙に飛んだ。
すっからかんのはずの魔法力を搾り出して後を追う。

「ダイ!ポップ!!」
さ…」

さっき砕けた宝珠は使用済みのものである。用意した宝珠は7つ。キルバーンは既に私がこれを使って解除する所を知っている可能性があった。ギリギリの数量だから無駄にできなくて、防がれた時のために咄嗟にフェイクを入れたのだ。今度こそこっちが本物、爆弾に沈黙の宝珠を押し当てて力いっぱい叫んだ。

「マジャスティス!!」

眩い光が弾けて散って、飛ぶ必要のなくなった2人と共に地面に落下する。無理、もう飛べない。骨折で済むかなあと、どこか他人事のように感じながら重力に身を任せて落ちていく。目を閉じて骨折を覚悟していたわけだが、地面に叩きつけられる事はなく、誰かの腕に抱きとめられた。

恐る恐る目を開けると、ヒュンケルが微笑みながら私を抱きとめてくれていた。


鼓動が高鳴る瞬間―――かと思いきや、湧きあがって来たのはトキメキではなく吐き気だった。

「う…!」
、どうし…」
「…き、気分悪っ、」

文字通り胃がひっくり返った。びっくりしすぎた所為なのか、今度こそ終わったという安心感か、とりあえず色んなものが胃を刺激してくださったわけだ。早口でヒムを呼びつけ、ヒュンケルの腕から離れて移動させてくれるようにお願いして、皆の目が届かない所まで頑張って我慢して、吐いた。ほとんど胃液しか出てこなかった。

「そりゃ吐きたくもなるわな…」

とはポップである。ポップとダイはそれぞれ、クロコダインとラーハルトが受け止めてセーフ。
吐いてる私にマァムが駆け寄ってきて背中を摩ってくれて、アバンさんがどこからともなく水筒を出して水をくれて(どこに収納してたんだこんなもん)、とりあえず二人にはヒュンケルを近づけないようにお願いして(吐いた直後の姿とか好きな人に見られたいわけない)、カールの兵士たちの先導で砦に向かって皆の後ろを歩いた。振り返っては心配そうに目を向けてくる銀髪のネガティブイケメンを無視するのは可哀想なので、時々手を振って。

「大丈夫かよ姐さん」
「んー…3日寝てなかったからね…」
「寝なかったんですか!?」
「そんなヒマないよ…爆弾の解除方法探すのに必死だったんだから」

ノロノロと吐き気を抑えながら歩いていたら、ヒムと、ロンさんの隣を歩くノヴァが心配そうに声をかけてきた。ほんと死ぬかと思った。二度とやりたくない、あんなギリギリの綱渡り。