(夢主視点)


疲労困憊している主力メンバーと違って一晩寝たらほとんど回復した私は、まだ誰も起きていないのでこれ幸いとばかりにロンさんの家にこっそり戻った。そして(勝手に設置した)五右衛門風呂を沸かし、ドライブラシで全身を刺激してからゆっくりと浸かって数日ぶりにしっかりボディケアをした。お風呂最高。髪をしっかり洗って、指先は爪まできっちり磨き、全身のストレッチをしてリンパマッサージをして身体には保湿の香油を塗り、温めた布でフェイシャルパックまでした。ここまでやったのは久しぶりだ。ここ数日はただ汗を流して保湿して柔軟するだけで精一杯だったから。

一人でお湯に浸かって戦いが終わった事を実感していたら、もう一つの問題を思い出した。
自分自身のことだ。


自分が死んだ事を知ったのがほんの4、5日前。その後、この件を一旦保留にして爆弾処理に駆けずり回って、決戦当日は皆の無事を願ってやるべき事をやるだけで精一杯だった。
けれども戦いが終わった以上は、自分の今後の方針を考える必要がある。最初は帰る方法を探すために生活の基盤を作るつもりでロンさんの家に居候していたけれど、帰れないならばこれ以上居座るべきじゃない。


「……あーあ」


家族にも友達にも二度と会えない。
考えれば考えるほど落ち込んできて、暗い気持ちを振り払おうと湯の中に潜った。

誰かに話したいけれど、話したところで解決策は無い。故郷がある世界では私は既に死んだのだから帰るも何もない。解決策も答えも無い事を人に話すのは好きじゃない。言って信じてもらえるとも思わない。だってどう考えても現実離れしすぎていて正気を疑われかねない話だし。信じてもらえたとしても、だからどうした、だ。

一人で生きていかなければならない。


ここで、たった一人で。


温かい湯の中に潜って一人で泣いた。戦勝ムードで暫くは泣けなくなるんだから、今だけは泣きたい。
誰かに知られたとてデメリットは無いけれど、知られて楽しい話でもない。人に話してどうこうなる話じゃないなら、人の気持ちを落ち込ませるような話はしたくない。それに、この世界でもダンサーとして上を目指す事は可能なはずだ。


決めた。


この世界でもう一度、トップダンサーを目指して走ろう。
出自は話したくないとだけ言えばいい。
どうせ調べられても何も出て来ないんだ、探られて痛い腹じゃない。
気持ちを切り替えて笑うんだ。
今までだってそうしてきたじゃないか。
舞台に立つ人間が仮面の一つも被れなくてどうするんだっての。



頭の天辺から爪先まで丁寧に綺麗にして、服を新しい物に着替えてカールの砦に戻ったら、私の姿が見えないことで少し騒ぎになっていたらしい。泣いてた所為でリフレッシュタイムが長かったから、皆が起きる前に戻って来られなかった。

さん、何処に行ってたのよ」
「ごめんねマァム。ちょっと着替えに戻ってた」
「ここでやればいいのに……」
「だって着替え持ってきてなかったから」
「…もうっ…」


むう、と納得行かない表情のマァムはかわいい。仲間の中じゃお姉さんの立ち位置の彼女だけど、私には懐いてくれているから、こっちも妹ができたような気分でつい可愛がってしまう。


「それで、私に何か用事でもあった?」


フローラ様の厚意で今日は休めと言われているので、炊事の手伝いくらいしかやることがないはずだ。どうかしたのかと思って尋ねたら、マァムはなんとも乙女ちっくな表情で言い難そうに答えた。


「……ちょっと……さんに相談があって……」


お?なになに、その顔は恋に悩むカンジ!?
他人の恋バナって大好き!
せっかくだから女の子っぽいことしながら話しましょ。



(マァム視点)


朝起きたら居なくなっていたさんは、昼前に砦に姿を現した。清潔そうな白いシャツと短いパンツ姿のシンプルな姿だけど、昨日よりもずっとキレイに見える。着替えるついでに身体を清めてきたらしい。こういうところは抜け目のない彼女らしいと思う。


女だけのために宛がわれた大部屋にはベッドが4つある。私、メルル、エイミさん、そしてさんがそれぞれ昨日ここで一緒に眠った。みんな死んだように深く寝入っていたから、さんが朝早く出て行ったことに誰も気付かなかった。さんを連れて大部屋に入ると、みんな出ていて誰もいなかった。


「座って。ネイルケアしてあげる」


隣り合ったベッドにそれぞれ向き合って座る。さんは荷物から爪やすりと刷毛、小瓶、ブリキの缶、それに布を数枚取り出した。片手を出すように言われて、言われるがままに手を出したら、さんが床に大き目の布を敷いて爪やすりで爪の形を整え始めた。シュルシュルと爪を削る音が静かな部屋に響く。


「それで、相談って?」
「……あの……ポップに……告白されたの」


さんが手を止めて顔を上げ、驚いた様子で私を見た。


「え、いつ!!?」
「最終決戦の時……メルルが大怪我をして命を落としそうになって、その時彼女がポップを好きだって……だけどポップは私を好きだって……」
「ワオ。初耳」


さんは再び私の爪の形を整えるのに集中し始めた。戦いの中で折れたり割れたりしていた部分が綺麗に削られて、細かく削れた爪の粉が床に敷いた布に落ちる。戦っている時は気づかなかったけど、こうして見ると私の手はさんの綺麗な手とは比べるのも恥ずかしいくらいに荒れていた。


「でも……私、男の人を好きになった事なんて一度も無いの」
「……初恋は?」


さんの問いかけに首を振る。爪を削っていた彼女は、そっか、とだけ言った。


「それで、自分の気持ちがよく解らなくて……さんなら私よりずっと経験があると思って。こういう時って、どうしたら気持ちがハッキリするのかしら…?」


片方の手の爪を綺麗に削り終えると指先の粉を刷毛で払い落として、さんが私のもう片方の手を取った。


「……じゃあさ。マァムはポップをメルルちゃんに取られちゃっても良いの?」
「と、取られるって」
「だって恋してる女の子は強いよー」


爪やすりを私のもう片方の手の指先に宛がって、シュルシュルと爪を削る音が再度聞こえ始める。オリハルコンを砕いた手が、女性らしい爪の形を取り戻していく。私は女に生まれて、ポップという男の子に好意を抱かれているんだと、妙に実感してしまう。


「例えば、メルルに誘われてポップが二人っきりで何処かに出かけて、二人が楽しそうに笑ってるのをマァムがたまたま見たとするでしょ?想像してみて、どう感じる?」


さんは指を一本ずつ丁寧に扱いながら慣れた手つきで爪の形を揃えていく。問いかけに、二人の姿を思い浮かべてみる。胸がざわついた。


「……それは……」
「ポップの事好きでも何でもないなら何とも思わないと思うけど、その反応はそうでもないんでしょ」
「そ、そんなことないわ。二人が楽しい思いをしてるなら…」


二人が楽しい思いをしているなら、何も悪くない。私の気持ちは関係ないはず。胸の奥でもやもやしたものが生まれても、それはただ、アバンの使徒として戦ってきた仲間を取られたくないという、子供っぽい独占欲のようなものだと思う。


私の表情を見ていたさんは爪を全て削り終えると、再び刷毛で粉を払い落としながらくすりと笑った。


「ねえマァム。遠慮なんかしなくていいよ」
「…え…?」


さんはブリキの缶を開けて布を手に取ると、缶の中身の白い粉を布につけて、最初に磨いた方の親指の爪を粉のついた布で擦り始めた。されるがまま、さんの目を見ると、彼女は優しく微笑みながら言葉を続けた。


「その子じゃ嫌、私を見て!って気持ちがあるなら、私はそれが恋だと思う。嫉妬する気持ちは醜いものじゃないし、むしろ健全な感情なんだからさ」
「……恋……なのかな。これって」


恋。
よく聞く言葉だけどこれまで自分が誰かにそんな感情を抱くことはなかった。
私は今、恋をしているのだろうか。


さんも……そういう気持ちになったりした…?」
「あるよー過去に何度も……まあ私の場合は別れたけど」
「別れたって……どうして?」
「んー?相手の浮気癖が治らなかったから」
「浮気!?」
「そ。バカだったなーあの頃は」
「全然そうは見えないわ」


さんはくすくす笑いながら、私の爪を一本一本順番に粉のついた布で擦っていく。


「マァム。恋で失敗を怖がってちゃだめ。まだ16歳……だよね?もっと自分の気持ちに正直になった方がいいと思う」
「……でも、もし私がポップを好きなら……メルルを傷つけることにもなるのよね…?」


私はメルルを傷つけたくない。彼女はとても良い子だ。ポップを一途に想っていて、彼のために身を盾にすることも厭わなかった。そんな彼女を差し置いて、告白されたからって身勝手に自分の気持ちを伝えてもいいとは思えない。


「恋なんて必ず誰かが傷つくもんだよ」
「けど…!」


そんな風に割り切れない。人の心を傷つけるのは好きじゃない。確かに沢山の敵を倒してきたけれど、戦いでもないのに人を傷つけるのは嫌だ。俯いた私に、さんは手を止めてにっこりと微笑んだ。


「マァムは可愛いし優しいし良い子。ポップが好きになるの、すっごくわかる。だから同じ気持ちだったなら
素直になっていいの、誰もマァムを責めたりしない」
「けどっ……ポップが途中でメルルを選んだら……!?」
「それはそれでしょうがないよ。人の気持ちなんて、ちょっとしたことで変わっちゃう事もあるからね。誰かのものを無理矢理奪ったり、不倫関係じゃないなら、恋愛にルール違反はないし」


両手の爪を擦り終えたさんは、布を替えて粉の残る爪を磨き始めた。
彼女の言葉の内容を考えながら、聞いて見たかった質問を投げかけてみた。


さんはヒュンケルのこと……」


どう思っているの、と全てを言う必要はなかった。爪を磨いていた彼女は顔を上げてはっきりと答えた。


「……好き。」


嘘じゃないことはすぐにわかった。瞳の中に、確かに彼への愛を感じさせる温かさのようなものがあったから。


「じゃ……じゃあ、ヒュンケルがエイミさんを好きになったらどうするの!?」
「んー、そしたらその時考える。でも今は本気で好き」


彼女が2枚目の布で両手の爪を軽く磨き終えると、ツルツルでピカピカになった自分の爪がそこにあった。あの粉は研磨剤のようなものだったんだ。感動してじっと見入っていたら、小瓶から取り出した香油のようなものを指先に丁寧に擦り込まれた。


「マァム。恋も戦いなんだよ。遠慮しちゃだめ、どうせ向こうだって遠慮なんかしてこないんだから」


甘いリンゴのような匂いが指先から香る。自分の指先がこんなに女の子らしくなったのを初めて見た。
武闘家だった自分から、女の子になっていいんだよと言われた気がする。さんは綺麗になった私の爪を満足げに見てにっこり笑うと、おしまい、と言って道具を片付けた。


さん」
「んー?」
「あの……ありがとう。相談に乗ってくれて、爪も綺麗にしてくれて……」


胸がドキドキする。少しずつだけれど、私はこれから女の自分を受け入れていける。
少なくともこの指先は、昨日までの私とは違う。

またいつでも相談に乗るから、と言い残してさんは部屋を出た。不意に流れてきた彼女の髪の匂いが前と違って木苺の甘酸っぱいような香りに変わっていて、愛らしさを強く感じさせる。彼女に相談して正解だった。


遠慮しちゃだめ、と堂々と言われた。
向こうだって遠慮なんかしてこない、とも。


胸の痞えは消えた。
ポップへの気持ちが少しだけ、見えてきた気がする。
静かな広い部屋に、リンゴと木苺の匂いが混ざっていった。



(夢主視点)


砦の近くの森で開けた場所を見つけて、氷の鏡を作り出し踊り始めて1時間。
汗が顎を伝い落ちる。息が切れて、額に浮いた汗を手の甲で拭い、傍に置いたタオルを拾って拭いた。
こんなに集中してダンスの練習をやれたのは1年ぶりだろうか。生き抜くのに必死で、練習は続けてはいたものの朝だけしかできていなかった。


練習用の青いノースリーブは、服の色が変わるほどじっとりと汗で濡れている。髪も汗を含んで湿っている。この世界に来るまでは、毎日こんな風に汗塗れになっていた。


ダンサーは舞台に立つ姿も華麗だし、踊っている本人も楽しそうに見えるから気軽な職業だと誤解されがちだが、実際は地道な練習を何度となく積み重ねてその様に魅せているだけだ。演技の他は、本来汗に塗れてひたすら自分の姿に向き合い踊り続ける。その中で最も美しいと思う瞬間を絞り、より美しくなるように研ぎ澄ませてゆく。だから頂点を目指せば目指すほど美意識が自然と磨かれる。自分の中でこう在りたいと思う姿に近づく為に力を注ぐ。


氷の鏡の中の自分を見る。さっきの腕の振りはいまいちだった。もっと高い角度で、指先は伸ばしたほうがいい。メリハリをつけないと動作が中途半端に見える。やり直しだ。自分が納得行くまで、一番良いと思える美しい動きになるまで、何度でも。


こうしてダンスの練習をガッツリやっているのには理由がある。
マァムの恋愛相談を受けた後、炊事の手伝いをして暇を潰していたらフローラ様に声をかけられたのだ。



「大した規模ではないけれど、3日後にこの砦で略式の宴を催すことになったのよ。それで貴方が踊り子だと聞いたから、余興を頼みたいのだけど…」

どうかしら、と尋ねられた私の答えは決まっている。
「やります!やらせてください!」
「良かった。少しだけど謝礼を出すから、期待しているわね」



パプニカの神殿で踊って以降、宴の席で踊りの仕事をするのは今回が初めてだ。白銀の踊り子なんぞと呼ばれてはいたものの裏方で違う事ばっかりやっていたから実際は踊りで評価を得たことはない。宴会の延長で踊ったようなもんだった。だからフローラ様からのオファーは、ダンサーとしての自分の価値を見出された気がして嬉しい。


それにパプニカのその場のノリみたいなものと違って、今回は準備に2日ほどの猶予がある。振り付け師がいないので自分で振り付けを考えなければいけないのは大変ではあるけど、時間があるからバリエーション豊かな踊りを練習して、精度も上げられる。これまでで一番の出来を見せられるはずだと思うと力が入る。ダンサーとして上を目指す決意をした直後だし、この機会には大きな意義があると思う。


太鼓とリュートが演奏できる人が居たので、振り付けを考える前に宴の席でよく演奏される曲を何度か聞かせてもらい、耳にリズムを叩き込んだ。オーディオ機器なんかないからメロディーを覚えて練習するしかない。けれど、やる。やってやる。


練習でターンを決めると汗が飛んだ。かまわず身体を次のポーズに持っていく。一つ一つの動きを確実に仕上げていく。集中して踊っていたらいつの間にか日が暮れていた。慌てて砦に戻るとまた私は探されていたらしく、ついに仲間達に“放浪癖がある”とのレッテルを貼られた。いや、違いますけど。そんなにフラフラしてるように見えてんのかな。



宴の前日、今度はちゃんとクロコダインに「ちょっとベンガーナで買い物してくる!」と伝えてルーラで街へ出て、踊りの衣装を手に入れた。


迎えた当日、メイクをして身に纏ったのはターコイズブルーのアラビアン風の衣装。見た目はまるっきりベリーダンスっぽいけど、振付けはバレエやコンテンポラリーダンスも交えているから動きのバリエーションは豊富だ。バタバタと忙しい合間を縫って演奏の人たちとも二回ほど通し練習もした。今日は皆の前で踊った中でも一番精度の高い踊りを見せられる。一番見て欲しい人は、綺麗だと思ってくれるだろうか。


大魔宮で熱っぽい瞳で見つめてきた彼の表情を思い出す。
これまで自分の気持ちを誤魔化していたのは、あんな純情な人を好きになってしまった自分を認めるのが気恥ずかしかったのと、いつか帰るかもしれない身では相応しくないと思っていたから。

でも二度と帰れないとわかったんだから、腹を括って向き合おう。
私はこの世界で生きることを決めたんだ。


そういえば付き合う相手は自分から好きになってばっかりだったから、相手の好意を感じてから気持ちが変わっていくのは初めてかもしれない。友愛だと信じきっていたものが色づいて、段々違う気持ちに変わるのは意外に不快じゃなかった。最初こそ曖昧だったこの想いは、いつの間にか自覚できる位まで大きくなった。



もう目は逸らさない。
夢は追う。
彼がもし私を愛していると言ってくれるなら、彼の気持ちにも全力で応える。
前に進むだけなら、迷う事はなにもない。



宴は砦の外の広い場所で行われる。椅子なんか無いので立食パーティー形式、パプニカの時と同じだ。
今回は余興の準備のために、皆とは別で先に食事を軽く済ませている。与えられた踊りの時間も前より長く、沢山動くのでウォーミングアップをしておく必要があるからだ。宴は既に始まっており、私の出番は1時間ほど過ぎたあたりだ。衣装に乱れがないか鏡で軽く確認して待っていると、ついにその時が来た。


舞台は地面、照明は松明と焚き火、演奏は太鼓とリュートのみ。
オーディエンスは勇者の仲間達と一国の主が2名、そして兵士が数十人。
駆け出しにしては十分すぎる。


「いよっ!待ってましたぁっ!さんのセクシーダーンス!!」
「うわあ、ホイミスライムみたいだっ!」
「ダ、ダイ。ホイミスライムはないわよ…」


衣装を着て姿を現した私を目にして、物凄く素直に感想を述べたダイをマァムが苦笑いで嗜めている。うん、ホイミスライムではないです。ダイはあれだな、褒め言葉にモンスターの名前を入れるのをやめた方がいいな。後で教えておこう。女の人を褒める時にはモンスターに例えてはいけません。

ふと視線を感じて目をやるとヒュンケルと目が合った。ウインクを飛ばしてみると、赤くなって目を逸らされた。おやおや大魔宮でのアグレッシブな君はどこに?

「いやあ美人ですねえ〜!ねえヒュンケル!」
「…見ればわかる」
「おんやぁ?顔が赤いですよ〜」
「…アバンっ…!」


何やらからかわれているらしい声を聞きながら、踊り始めのポーズをとる。太鼓が軽快に鳴り、リュートが旋律を奏で始めると同時に、身体を躍動させる。

周囲の声が一瞬途切れて、最初のターンを決めた瞬間に拍手が沸いた。


まだ、永遠の愛というものは心から信じられてはいないけれど。
確かな恋心を自覚できた今なら、きっと、もっと踊れる。
誰よりも高く美しく昇っていける。


腕は滑らかに流れるように、

指先は優雅に繊細に。

「すてき!」
「優美ね…」


足は高くしなやかに、

首筋は妖艶に。

「うっひょお〜っ!」
「あんなに足上げて転ばないのかなあ?」
「もう、ダイくんったらっ!」


関節を最も美しい位置まで動かして、


「はー!人間の身体ってのは、あんな動きができるもんなのか」
「いやはや、すごいものですねえ」
「気合入れやがってバカ弟子が」


薄布を炎の様に揺らめかせて、大振りな動きで視線を強制的に惹きつける。


「ヒューヒュー!」
「いいぞー踊り子のねえちゃーん!」


サババで知り合ったゴメスさんの野太い声が響いて場を盛り上げている。

沢山の視線が集中する中、紫の瞳が誰よりも真っ直ぐに私を見つめている。
熱を含んだ視線に焼かれて、身体の動きが一層大胆になっていく。

どうか見て欲しい、こう在ろうと思い続けて磨き上げた姿を。

音楽に乗って身を躍らせる、これこそが今日、今夜からの私の姿になる。


もっと高く、上って魅せる。

だからどうか傍で見ていて。
他でもない貴方に、隣にいて欲しいから。