ロモス襲撃から3日後。現在私は潮風を受けてマァムとまったりのんびりしている。どこにいるかというと、船上だ。

さんもこっちでよかったの?」
「んー……ホントは遠回りになるんだけどね。戻りの船がこの間のモンスター襲撃で無くなっちゃって、この船しか出ないって言われてさ」

そう。あの後、帰ろうとした私は微妙に彼ら3人の勇者の仲間と思われてしまい、いや違うんです通りがかりなんですと説明してベンガーナに帰らねばならない旨を伝えた所、私が来る時に使った港は魔物の襲撃で現在封鎖されており、次に港を開けるのは一月後だと言われた。つまり帰る道がなくなってしまったのである。予想していなかったタイムロスに、家主の機嫌の悪そうな顔が連想されて溜息が出た。

「しょうがないから、迂回して帰るつもり……」
「そうなんだ」

この船は昨日ダイの故郷のデルムリン島に立ち寄り、ホルキア大陸に向けて運航している。ホルキア大陸というのはパプニカの国土で、ここもロモス同様一つの大陸に一つの国。国土はロモスより少し小さい。カールと同じくらいだろうか。一度も行ったことが無い国だが、つまるところここを経由しないと帰れないわけだ。

「しかし、乗る前にも言ったが、本当に気をつけねばならんよ」

甲板で椅子に座ってまったりしていた私に、船長さんが声をかけてきた。

「パプニカはおそらく壊滅状態……しかもベンガーナ行きの船に乗るなら、パプニカに着いてから北西を目指して大陸を渡る必要がある」
「はは、あー……きつそうですねそれ……」

ホントに考えただけでハードだ。ロモスでしっかり物資補給したけど、足りるだろうか。山道で狩りとかしなきゃいけないかも。私がどんより暗くなっていると、波の揺れる様子を見ていたマァムが話しかけてきた。

「ねえさん、気になっていたんだけど」
「んー?」
「貴方の動きって変わっているのね。まるで踊り子みたいだったわ」

踊り子。その表現はおかしくは無い。ただ、私はどちらかというと踊り子じゃなくて舞踏家、ダンサーだ。お酒の席で踊るだけの仕事ではない。微妙なニュアンスを受け止めきれず、かといって違いを説明するのも難しいので仕方なく頷いておいた。

「んー……踊り子……ダンスのリズムを動きに入れてるから、そう見えるかもね」
「へえ!踊りが出来るの?」
「そ。本業なん……「えっ踊り子ッ!?」

食い気味に割って入ってきたのはポップ。クロコダインとの戦いでちょっと遅れてきた魔法使いの男の子だ。年頃らしく踊り子という言葉にわかりやすく興奮している。あからさま過ぎてむしろ可愛いな。

「ちょっと!今は私が話しているんだから邪魔しないでよね!」
「だって踊り子って聞こえたぜ!?さんすっげー美人だもんな〜!ねえねえ、何か踊れんの?」
「ここで?できなくはないけど……」

この世界の踊り子というと、ベリーダンスに似た踊りが一般的だ。一応できなくはないけれど、ベリーはまだ中級くらいしか踊れない。私が普段踊るのはバレエを地盤にしたコンテンポラリーとブレイクを合わせたもので、現代風に言うとアーティストのライブ会場でバックダンサーが踊るアレ。どうしたものかと思って考えていると、マァムがなんだかキラキラした目でこっちを見ている。

「えっと……もしかしてマァムも見たい……?」
「ええ!だって私、本物の踊り子さんに会うのって初めてなんだもの。やっぱり綺麗な人がなるものなのね……すごく興味があるわ!」

いや違う。やりたい人がやるんだよダンサーは。実力があれば容姿は以外に関係ないよ。メイクでわかんなくなるし。とは言え、期待感のこもった目で見られては逃げられない。どうするか。

「いやーでも何か、音楽が無いと「船長さーん!なんか楽器ねえのー!?」
「楽器?それなら太鼓と笛が演奏できるものがおるが、演奏させるか?」
「頼むよ!さんが踊ってくれるって言うからさー!」
「えっポップちょっ「なになに?二人ともどうしたんだい?」「さんが踊ってくれるって言うからよ!お前も見せてもらえよ!」「踊り?さんって踊りが出来るの?」「ねえ、ダイも見たいでしょう!」「うん!」

あっダメだこれ断れない。子供ってすごいわ。そしてダイ可愛いわ。
結局船長さんもノリノリになってしまって、船員さんが太鼓と笛を準備し始めたので、ベリーをメインにしっかり踊った。プロたるもの踊れと言われたら踊るもんだよね、もちろん手は抜いてない。

それからパプニカに着くまで、2回せがまれて踊ることになった。彼らの中で私は完全に踊り子さんになってしまったんだけど、良いのか悪いのか。私のダンスはこれだけじゃないんだけど、でもなんだかんだ踊りを見てくれる人が楽しそうだと気分がいいから、どうでもいいや。



ロモスで知り合った人はさんという、すんごい美人でセクシーなお姉様だ。クロコダインの襲撃に立ち向かおうとしたダイを心配して、城に向かったダイとマァムを手助けしてくれたらしい。その後も怪我人の回復を手伝ってくれた。ほっそりしてんのに胸とケツはしっかり張りがあるし、手足もすらーっと長くって、正に男が憧れる理想的な年上のお姉さんって感じだ。マァムの胸もいいけど、さんみてえなお姉様とお知り合いになれるなんてついてる。回復してもらった時なんか役得だった。マジでお姉様のフトモモ最高。
アバンの使徒でも何でもないけど、船の上にいる間だけでもお近づきになっといて損は無いよな。甲板で並みを見つめてぼーっとしてる後姿も、ケツがプリッとしててイイ。

さ〜んっ!」
「んー?」

あーすげえいい。この「んー?」て言い方。下がり気味の眉にちょっと垂れ目がちな目元と、ゆるゆるウェーブしてる髪型、そんでぷっくり厚めの色っぽーい唇でにっこり笑って振り返る仕草。すんげえ可愛い。マァムとは大違いの、大人のお姉様の余裕な感じが堪んねえ。泣きボクロがこれまたセクシーだ。

「どしたのポップ君」
「なに見てんスかぁ?」
「鳥。あそこに群がってるの」

細くて綺麗な指が差した先には海鳥が沢山飛んでいる。なんか海面の一部分にだけ集中してる気がすんだけど、なんだありゃ。

「多分あの位置に魚がいるんだよ。釣り道具持ってきてたら釣れたかな」
「釣り好きなんですか?」
「好きってほどじゃないけど、暇つぶしにちょうど良くない?」
「あー、そうっすね!」

つまりヒマなのかこの人。まあそうだよな。まるっと一週間以上船の上だもんな。よし、なら世間話ついでに情報収集しよう。

「ところで話は変わるんすけどぉ」
「うん」
「あの〜……さんって恋人とか……」

実は一番聞きたかったこと。ズバリ、さんはフリーかそうでないのか!もしフリーなら、ちょっとずつでもお近づきになれたら最高だろ!?可能性は低いけど。つーか絶対居ると思うけど。
さんはオレの質問を聞いて、垂れ目がちな目をぱちぱちとさせ、くすくす笑った。

「そんな恥ずかしそうに聞かなくってもいいのに」
「や、だって、聞きにくいじゃないっすかぁ!」
「普通に聞いていいよ?恋人いないんですかって。ちなみに私はフリー」
「えっマジ!?」
「うんマジ」

オレの反応にさんは面白そうに頷いた。
嘘だろこんな美人が恋人いないとか!そりゃ探せばいるレベルの容姿ではあるけど、恋人居てもおかしくない年齢だろうし。村一番の美人って呼ばれてた女の人も19で結婚したけどさんほどじゃない。

「そこまで驚くこと?なんか皆似たような反応するんだけど」
「や、だってさんすんげえ綺麗なのにさ」
「えー探せば普通に居るって」

滅多にいねえよ。この人本気で言ってんのか?この容姿レベルならお城の王子様に見初められたりとか普通に有り得るだろ。まさかモテすぎて男嫌いになっちゃったとか……

「……今さあ。ポップ君すごい失礼なこと考えてない?」
「い、いやっ、んなまさか!」
「いーや考えたね。“21にもなって彼氏いないとかマジ!?人格に問題あんじゃねーの!?”的なこと考えたでしょー!」
「考えてねえって!ホントホント!」

むしろ自分でもっと酷いこと言っちゃってるんだけど。やべ、この人見た目に反して結構気さくだ。面白えな。

「ちなみに大人なら、ここ口説くとこだから」
「えっ」
「あはは冗談だって!実は今恋人とかいらないから口説かれてもお断り中〜」
「なっ、かっ、からかわないでくださいよぉ!」
「いやー純情な男の子ってかーわいーね」

そして面白い以上に相当な小悪魔だ。恋愛感情抜きにしてファンになりそう。

「あー楽しかった!またお喋りしよ〜!」

主にさんの後姿から見える、美尻と美脚の。